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【長編連載】アンダーワールド~冥王VS人間~ 第三部ー101

《あらすじ》

架空の日本国を舞台にした現代ファンタジーです。
時はもうすぐ22世紀になろうとしている、災害大国である日本。
国のトップである首相は、神を殺し続け自分が神になり替わろうとした。
それをきっかけに国は暗闇に落ち、冥界からは死神と、人間でありながら死して冥王の部下として働く、特例と呼ばれる者達が降り立ち、闇から国を救うために動き出す。
特例・死神・妖怪・鬼が生きるために、国と戦う物語です。
これは以前に書いた古い作品で、他サイトにも投稿したものです。

noteでは少し改訂させていただきました。
新聞の連載をイメージして、一話を短くしています。
現在も続編を書き続けている一作なので、ゆるりと読んでいただけたら嬉しいです。

*この物語はフィクションです。実在の人物や団体、地名などとは一切関係ありません。

八雲翔

「龍神」

「この弁当をワシにくれるのか? 」

地主神は黒谷を見ると聞いた。

「赤姫さんにも喜んでもらえたお弁当なんでおすそ分けしたくて、
これは俺の自信作なんです」

「おぬし、あの赤姫の知り合いか?  
神が見える人間には会ったことがないと思っていたが、
あの姫様と旧友とは恐れ入ったわ」

地主神はそういうと驚き入る様子で黒谷を見た。

「実はですね。
このお弁当を販売したいんですけど、
この辺て商売に向いてる土地ですか? 
神様がいるところは悪霊少ないから俺としては大歓迎なんだけど、
せっかくの赤姫折詰売れないと寂しいでしょ」

「そうさなぁ~
この辺りは地蔵菩薩が多く祀られておるが、
そのあたりは地縛霊もうろついておるから、
おぬしのような魂のものはあまり近寄らないほうがいいな。
わしのいるこの近辺なら、
どす黒い奴らはいないからおぬしも安全だ」

「そっか」

「車で売るのか? 
なら移動販売が交互にきて販売しておるぞ」

「どんなものを売っているか分かります? 」

「わしも長い事ここにいるが食べ物も大分変ってきたな。
カレーとか揚げ物が多いのではないか? 
オフィスビルも増えたんでな。
場所を移動する妖怪もおる。
わしも息苦しくなってきた」

「みんな住処を追われちゃうんですね。
俺と同じだ」

「おぬしは根無し草か? 」

「似たようなもんだよ。
やっと部屋を見つけてもすぐに追い出されちゃうのよ」

「そりゃ大変だ」

「でしょ。だからキッチンカーでも始めようかと、
お金を貯めてるんです」

「そうか。ここは競争率が激しいから、
やはりランチは激戦区じゃぞ。
弁当も多いんじゃないか? 」

その話に黒谷は腕を組むと唸った。

「う~~ん、差別化図りたくて、
赤姫折詰弁当はちょっと高いんだよね~
一応、定価の安い日替わり弁当も置いて、
赤姫は限定個数の販売にするつもりなんだけど、
難しいかなぁ~」

黒谷が考え込む姿に、

「おっ、この弁当は美しいの~」

地主神は折詰を開けて笑顔になった。

「季節の総菜に和菓子まで。食は命なり」

「? 」

黒谷が首をかしげると、

「命というものは食によって生かされるもの。
季節の恵みに感謝し、
その源を体に取り入れることで、
おぬしが作られているのだぞ。
この折詰はよく考えられておる。
彩りも鮮やかで楽しくなるな。
人間の価値観は個々で違いはあるが、
おぬしに共感するものがいないとも限らん」

地主神は優しく笑った。

「物は試し………当たって砕けろか…」

「ふぉっふぉっふぉ」

地主神は愉快そうに笑うと、

「弁当の礼に一つ教えてやろう。
おぬしは見た所は問題なさそうだが、
向こう側とその奥には悪霊が出るぞ」

「そうなの? 」

「気を付けなされ。ごちになった。また遊びにおいで」

地主神はそれだけ言って姿を消した。


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八雲翔
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