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【長編連載】アンダーワールド~冥王VS人間~ 第三部ー90
「冥王と赤姫」
「そんなことがあったんですか?
俺もその赤姫を見てみたかったですね」
向井が腕を組んで笑うと、
「何言ってんですか? あれは鬼ですよ。鬼!!
神なんてもんじゃないです」
セイは思い出すだけでも嫌だというように、
身震いしながらカウンターの奥へと戻っていった。
「あっ、向井さん。帰られていたんですね。
冥王が探してましたよ」
オクトがやってきた。
「今どこにいますか? 執務室? 」
「いや、食堂かな?
赤姫とやりあってお腹が空いたって言ってたから」
オクトが笑った。
「セイ君の話では赤姫って相当怖いらしいね」
「ああ、彼女にからかわれて、
ちょっと怖い思いをさせられたんですよ。
まあ、いつもの事ですけど、
赤姫は何をするかわからないので、
彼女が来ると冥界はピリピリするんですよ」
「ふぅ~ん。じゃあ、食堂に行ってみますね」
向井はそういうと、手を振って歩いて行った。
――――――――
食堂では冥王がトリアとアートンと、
何やら話しながら食事をしていた。
向井が近づいて声をかけると、
「やっと来た。向井君、
面白いもの見られなくて残念だったね」
トリアがケラケラ笑いながら言った。
「いや、いなくて正解ですよ。
あの人イケメン好きだから向井さんも狙われちゃいますよ」
アートンが言った。
「イケメン好き? 」
向井は何が何だかわからず聞き返すと席に着いた。
「新田君がもう少しで、
赤姫の餌食になるところだったのよ」
トリアが笑って紅茶を飲んだ。
「今死神課の前を通ったら、
赤姫の話題で騒いでましたよ。
余程インパクトのある方なんですね」
「まあ、地主神の中では中央にいる神なので、
冥界でも一番話題に上がる女性ではありますね」
冥王が説明したところで、ドセがやってきた。
「向井さんも何か召し上がりますか? 」
「そうですね。では、皆さんと同じものを」
向井は冥王たちが食べているスコーンを見てから言った。
「わかりました」
ドセが頭を下げて去っていくと、
「実はね。あの赤姫と特別室の大沢はいろいろあってね。
このところ大沢のやり方に、
赤姫の怒りが溜まっていたんだと思うんですよ。
人間に利用されていることにもご立腹でね」
冥王が乾いた笑いをした。
そこへドセがスコーンを運んできた。
「有難う」
向井はそういうとドセが下がるのを見て、
冥王の話の続きを待った。
「で、向井君には悪いんだが、
赤姫と安達君もできれば会わせたくはないんで、
暫くは特別室の様子をうかがいながら、
安達君も見ていてほしいんです」
「派遣の仕事も溜まっていますけど」
「それもしばらくは放っておいてください」
「分かりました。赤姫は下界の神なんですよね。
安達君と会わないでいるのは難しくないですか? 」
向井がスコーンを食べながら聞くと、
「大体地主神って、普段は表に出てこないのよ。
お供えして祭りをしてれば、
大抵はおとなしくしてるものなんだけど、
赤姫の場合は少し問題があってね」
「そうなんですか」
向井は頷くとそれだけ言って三人の様子をうかがった。
「まあ、神様も色々あるってことよ。これも神だしね」
トリアは冥王を指さすと笑った。
冥王は渋い顔をするとスコーンを口に放り込んだ。
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