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【長編連載】アンダーワールド~冥王VS人間~ 第三部ー87
《あらすじ》
架空の日本国を舞台にした現代ファンタジーです。時はもうすぐ22世紀になろうとしている、災害大国である日本。国のトップである首相は、神を殺し続け自分が神になり替わろうとした。それをきっかけに国は暗闇に落ち、冥界からは死神と、人間でありながら死して冥王の部下として働く、特例と呼ばれる者達が降り立ち、闇から国を救うために動き出す。特例・死神・妖怪・鬼が生きるために、国と戦う物語です。
これは以前に書いた古い作品で、他サイトにも投稿したものです。noteでは少し改訂させていただきました。
新聞の連載をイメージして、一話を短くしています。
現在も続編を書き続けている一作なので、ゆるりと読んでいただけたら嬉しいです。
*この物語はフィクションです。実在の人物や団体、地名などとは一切関係ありません。
八雲翔
「黒谷登場」
「あんたら死神みたいなもんなんでしょ? 」
「死神……とはちょっと違いますけど、
まあ、上から来てるから似たようなもんですかね」
向井もそういうと笑った。
「ところで、この団地は何かあるんですか?
住人の方が出て行くようですけど」
向井が聞くと、
「ああ、移民特別委員会が来て、
来週から外国人労働者の住まいになるからって、
俺達は追い出されたわけ」
「黒谷君も退去ですか? 」
「そう。まあ、とりあえず、
次の仕事まで非監視ネカフェにいて、
その間に住める団地を探すつもり」
最近は国中に監視が付いて回るので、
非監視アラートを付けている店も多くなった。
国からは監視抑制はしないように言われているが、
店によっては法案に逆らっている場所もある。
一応政府から配布されているステッカーはあるが、
客の要望に応えて表カフェ以外にも、
裏カフェを選択できるようにしていた。
ステッカーだって有料なのだから、
それをしてでも運営せざるを得ない事情もあるという事だ。
反対にそれが犯罪を生むという声もあるが、
一時、指紋や眼球登録にして、
殺人事件が増えたことで努力義務になった経緯もあるので、
国の新法案に疑心暗鬼の国民も増えていた。
「この国って築年数の古い団地が沢山あるだろう。
利便性のあるところは外国人用住居になるから、
それ以外のところで探せば何とかなるから」
「前向きなのはいい事です」
「リストラからこっち、災難続きだからもう慣れた。
困ってるときは高田さんが差し入れくれたし」
「それは差し入れが欲しいという催促でしょうか」
「そう聞こえた? 」
「まあいいです。高いものじゃなければ、
必要なものを少し届けますよ」
「おっ、助かる。
そのかわりと言っちゃなんだが、
俺で役立つことなら何でも聞いて。教えるから」
そんな話をしていると団地の階段から老女が一人、
こっちに向かってやってきた。
向井が姿を消すと、
「あれ? 今、誰かとしゃべってなかったか? 」
「いや、俺だけ」
「そうか」
「玲子ばぁは、ここ出てどこ行くか決まってるの? 」
老女は杖で体を支えながら言った。
「あたしはほら、あそこにいる親戚が、
次の団地が決まるまで置いてくれるって言うから、
その間に住宅課にいって団地の抽選登録してきたよ」
「そうか。俺もしとかないとな。
移民特別委員会が来なさそうなとこだと、
ちょっと不便なんだよね」
「あんたはほら、PC? あれで仕事もしてるし、
不便なとこでも暮らせるだろ? 」
「日雇いも入れなきゃ家賃も光熱費も払えねえよ」
「そうか。あたしも内職しとるからな。
次もあんたと同じ団地なら助かるんだけどね~」
「玲子ばぁはどこを登録してきた? 」
「え~、家賃が安い………こことここ」
玲子は紙をトートバッグから取り出すと黒谷に渡した。
「そっか。安心しな。俺も同じとこにするから。
あとで連絡するよ」
「それは助かる。そうだ、あんたは住むとこあるのか?
向こうに政府の緊急バスが来てるぞ。
雑魚寝らしいが、
とりあえず二週間は住まわせてくれるってさ」
「いや、大丈夫。とりあえずネカフェ行くから」
「そうか。じゃあ、気をつけてな」
「玲子ばぁも次に会う時に死体は勘弁してくれよ」
「縁起でもねえこというな」
そういうと、玲子は親戚が待つ車まで歩いて行った。
向井は姿を現すと黒谷を見た。
「生きるのも大変な時代になりましたね」
「仕方ないさ。世の中長いものには巻かれろだろ」
「黒谷さんはネカフェでいいんですか? 」
「いいの。あんな政府のバスに乗ってみろよ。
行った先でチップ埋められちまう」
「!! 」
向井の驚いた顔に、黒谷が笑った。
「知ってるよ。若い奴らはチップが埋められてるんだろう?
あのバスに乗る連中は二十代はいないから、
政府としてはチップを埋め込みたいわけよ。
あんな得体のしれないもん体に入れられたくないからね。
家族子宝の会とかいうのが後ろ盾になってるから、
大沢政権は楽勝だよね」
「どこでそういった情報を得てるんですか? 」
「俺ってさ。霊が見えるのは確かなんだけど、
それだけじゃなくて人間の悪意も見えちゃうのよ」
「悪意? 」
「そう。だから危険な人物には近寄らないの。
そうしてると、霊の中にはお喋りなのもいてさ。
色々と教えてくれるんだ」
「なんだか俺達より、能力高そうですね」
「そう? だったら死神として働かせてよ」
「無理です」
二人は同時に笑った。
「それに、お国の為にみんなの為に君の我慢が地球の未来、
この政府広報、怖くない?
知り合いが国民証明証で、もう何年も裁判してんのよ」
「裁判ですか」
「この国って毎年十万人が行方不明で、
少子化なのに人口は変化がないだろう。
国の半数以上が移民なんだから当然だよね。
国民証明証もいつの間にか他人のものになってて、
一つの番号で何人もの人間がいたりさ、
犯罪者やスパイがなりすましでこの国にいるんだって。
犯罪が減るわけないよ。
その知り合いも生きてるのに死んでることになってて、
それを証明するのに裁判してんの。
大災害から知人や家族を亡くしてる人も多いから、
もう無理なんだよ」
2Aから下は国民証明顔認証アプリを登録しないと、
この国では生きていけないくらい下々には監視がきつくなっていた。
アプリの認証エラーも多く、
そこから毎日のように情報が洩れ、
そのたびに新機種が作り替えられている。
犯罪に巻き込まれる国民も増えているが、
それすら通常の事で自分でなければいいと、
誰も気にしなくなっていた。
「それも霊からの情報なんですか? 」
「そう。人間より霊の方が信じられる世の中だよ。
調べてみると事実なんだから怖いよね~」
「でも、悪意ってどうやって見分けてるんですか? 」
「よくオーラの色がって言うでしょ。あれ、本当。
悪意のある奴やあくどい奴ってドロドロしていて、
どす黒くって濁ってきたないから近づきたくもないんだよ」
黒谷を見ても霊は見えないし、
恐らく彼の魂自体が危険から遠ざけているのかもしれない。
向井は不思議そうに黒谷を見た。
「とりあえず、お話が出来てよかったです。
住居が決まったら何か必要なものを届けますよ。
俺は人間ではないので、
チップがなくても黒谷君の事は分かるんです」
「それ、怖いんですけど」
向井は黒谷に意味ありげな顔で笑うとその場を去った。
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