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【長編連載】アンダーワールド~冥王VS人間~ 第三部ー88

《あらすじ》

架空の日本国を舞台にした現代ファンタジーです。
時はもうすぐ22世紀になろうとしている、災害大国である日本。
国のトップである首相は、神を殺し続け自分が神になり替わろうとした。
それをきっかけに国は暗闇に落ち、冥界からは死神と、人間でありながら死して冥王の部下として働く、特例と呼ばれる者達が降り立ち、闇から国を救うために動き出す。
特例・死神・妖怪・鬼が生きるために、国と戦う物語です。
これは以前に書いた古い作品で、他サイトにも投稿したものです。

noteでは少し改訂させていただきました。
新聞の連載をイメージして、一話を短くしています。
現在も続編を書き続けている一作なので、ゆるりと読んでいただけたら嬉しいです。

*この物語はフィクションです。実在の人物や団体、地名などとは一切関係ありません。

八雲翔


「黒谷の不思議な魂」

向井はその足で洋菓子店に寄り冥界に戻っていった。

廊下を歩いていると休憩室から声が聞こえてきた。

「だから、犯人はこいつなんだよ」

「え~違うでしょ」

サスペンスドラマを見ながら、
牧野と早紀が意見を戦わせていた。

安達はそんな二人のやり取りをじっと見ている。

向井が部屋に入ると、

「あっ、お帰り」

早紀が気づいて声をかけた。

向井は手にした箱を見せると、

「はい、お土産ね。
牧野君の好きなケーキを買ってきましたよ」

「えっ? 俺が好きなって……チョコ? 」

牧野は嬉しそうに言うと、飛んできた。

箱を受け取って中をのぞくと、

「オペラだ~!! 食べよ食べよ。安達、皿出して」

と声をかけた。

「オペラ? 」

不思議そうにしている安達に、

「そう、食堂のチョコケーキより美味しいぞ」

「食堂のより……? 」

安達も嬉しそうにソファーから立ち上がると、
お皿を出しにミニキッチンに行った。

最初はどうなるかと思っていたが、
牧野も安達の扱い方が分かってきたようだ。

生意気で知らないことが多いちょっとおかしなガキ。

牧野の目には安達はそのように映ったようだった。

「向井君は子供に甘いなぁ~」

早紀も笑うと、
ケーキを取り分けているお皿を取りに立ち上がった。

「そうだ。向井が戻ったら、
冥王室に来てってアートンが言ってた」

牧野がケーキを頬張りながら振り向いた。

向井はその顔にあきれたように笑うと部屋を出て行った。


――――――――

冥王室は休憩室から少し離れた場所にあり、
この廊下を歩くものは死神か向井のような一部の特例だけなので、
足音だけが響く。

向井が部屋のドアをノックすると、
中からアートンが出てきて中に入るように言った。

「失礼します」

一礼して顔をあげると、

「黒谷君に会ってきたんでしょ? 印象はどうでした? 」

冥王が聞いてきた。

「話をした限りでは問題はなさそうでした。
彼の魂は徳が高いんでしょうか。
自ら危険なものを避けて生活しているようなので」

向井は机の前に近づくと言った。

「ふむ。アートンも高田君と一緒に一度接触させたんだけど、
彼、アートンが人間じゃないって一目で見分けたんだよね」

「そうなんですか? 」

向井が横に立つアートンを驚いて見た。

「そうなんですよ。魂を見る限り、
特別徳が高いわけでもないんですけど……
ただ、何度か再生済みの魂なので、
本来なら上書きが見えるんですけど彼の魂は本当にまっさらなんです」

「消去するたびにまっさらな状態になる魂って私も初めて見るので、
高田君に監視対象とさせていたんです」

「彼がものにこだわらないのはそういう理由もあるんでしょうか。
彼は今回住むところを無くしたんですけど、
魂を見ていても前向きで問題のある人物には見えませんでした。
反対にこっちが彼の持つ情報に驚いたくらいですから」

「そうなんですよね。
僕も話をしたときに思ったんですけど、
霊に取り込まれることもなく霊と会話できる人間を初めて知りました」

「これは……」

冥王が難しい顔をして考え込んだので、
向井とアートンがその様子に聞いた。

「なんですか? 」

「彼を向井君の助手にするか? 」

「助手? 」

二人は吃驚し、冥王に顔を近づけた。

「いやいや、そんなに驚くことじゃないでしょ」

「驚きますよ。黒谷君は人間ですよ」

向井が言うと、

「別にワトソンという訳ではなくね。
監視対象から外すわけにもいかないので情報をもらいつつ、
彼に必要なものを与えるとかね。
現金は無理だけど何か困ったことがあるなら出来る範囲で、
彼の望むものをさ」

冥王が言った。

「だったら、住む場所が決まったら、
生活に必要なものが欲しいみたいですよ。
高田さんは困っている時に差し入れていたみたいなので」

「ほお~高田君はそんなことをしていたのか」

「だったら、向井君にもそうしてもらえますか? 
この先、今いる特例と顔を合わすこともないとは言えないので、
出来るだけ穏便にいたいじゃないですか」

「冥王はこういうことに関しては、
僕たちに丸投げで手軽に済ませようとしますよね」

アートンがあきれ返ったように言った。

「そんな嫌味を言わないでくださいよ」

向井はそんな二人のやり取りに少しずつだが、
冥王という人物が分かってきて笑顔になった。


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八雲翔
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