私はあなたの壁を壊さない。
教員になってもうすぐ3年が経ちます。少しずつ、自分がどのようなことに向いているのか、向いていないのかが分かってきました。
やっぱり向いてないなと思うのが、生徒との距離を縮めようとすることです。相手の領域に踏み込むことです。そもそも、人見知りなのです。
私が憧れた先生は、熱血で明るくて親しみやすい人でした。私もこんな大人になりたい。その先生は私の理想でした。
教育実習の時には「せっかくだから、生徒たちとたくさん関わってね」と、担当の先生から言われました。先生には親しみやすさも大切なようです。
人見知りがムリに距離を縮めようとすると、フレンドリーな性格を演じることになります。もちろん、それで上手くいく人もたくさんいます。けれど私の場合は、慣れないことをするとウザさというか馴れ馴れしさが出てしまい、相手に引かれてしまうのです。シンプルにコミュニケーション能力が低いからなのですが、今のところどうしても上手くいきません。
教員になってから、何とか憧れの先生に近づけるようにと、いろいろと試行錯誤を繰り返していました。でも、ある時ふと思いました。
あれ? 私ってフレンドリーな先生が苦手じゃなかったっけ?
親しみやすいというのも素敵だなと思うのですが、それが行き過ぎて初対面で相手の領域にズケズケ入り込んでくる人がそもそも苦手です。私は自分と相手の間に壁を作ってしまうのですが、それを簡単に蹴破られると怖くて警戒してしまいます。まずはコンコンコンと、ノックくらいから始めてもらえると助かります。
憧れた先生はたまたま親しみやすい人でしたが、笑顔とトーク力を武器に相手の領域に入り込んでくるような先生に苦手意識がありました。そりゃ、フレンドリーにはなれないね。自分に合わないから、不慣れさも出てしまいます。自分がされて嫌なことは、他人にやってはいけない。
教育実習の時、放課後に担当の先生を待つ間、少し時間ができたので渡り廊下から夕日を眺めていたことがありました。その時、担当クラスの生徒から声をかけられました。
「先生、何で外見てるの?」
「うーん、ぼーっとしたいからかな」
「そっか。教育実習がんばってね」
「うん、ありがとう」
そんなちょっとした会話でしたが、その後3週間の教育実習で一番仲良くしてくれたのはその生徒でした。
ありがたいことに、人見知りな私でも、生徒が心を開いてくれることがあります。休み時間に教室でぼーっと生徒たちが遊んでいるのを眺めていると、「先生、この前ね」と話しかけてくれたり、時には恋愛や進路の相談をしてくれたりすることもあります。相談相手は私でいいのかな?
それで十分なはずなのに、何かのはずみで、かつての理想が溢れ出してしまうことがあります。他の先生に自分の仕事を褒めてもらったり、生徒との関係が良くなってきたりすると、調子に乗ってキラキラした先生になろうとしてしまう。そして、やっぱり上手くいかない。
だから最近では、仕事用のパソコンに、「身の程を知れ」というメモを残しています。毎日それを見て、自分に言い聞かせています。
私は生徒との距離を縮めて、絆を深めることはできない。
でも、私はあなたの壁を壊さない。あなたの領域に勝手に入ることもない。ただ君たちを見守っているだけ。そんな安心を感じてもらうことが、きっと私の向いていること。
今はそんなふうに思っています。