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【詩】ワイヤレスイヤホン



音がある生活が当たり前だから、まったく意識もしていなかったし、そばにいるのが正常と認識していた、だけど、些細なことで、ぼくから音が消えた、足元はぐらついて、道標がいなくなったようだった。
耳に入るのは、吐き気を引き起こすような雑音だけ、砂嵐のような、ぐしゃぐしゃした、まるで、阿鼻叫喚とでも言おうか、なにもかもを逆さまにした世界、そんな中に踏み込んでみれば、ぼくそのものの存在すら忘れる、あれ、ぼくは何だっけ?手を伸ばしてみて、小さくなった出入り口に置かれた、その花を食べてみたら、天地もひっくり返って、性別も曖昧になるでしょう。
あの音に会いたい、今すぐ、耳の奥に残る記憶が消去されてしまうまえに、録音できれば、こんな心配はいらない、涙も返してくれ、そしたら、足元には体が動けなくなるくらいに花が咲いてくれるのかな、花の香りが、耽美な毒だとしたら、きっと、もうぼくは侵されている。
満月の夜は、人を変える、闇夜を照らすそばで、砂のように消えていく、そんなやつになりたかった、その瞬間の音が、生きている間で1番響くものだと知っていたから、だから、今夜も、全身の感覚を頼りに、血を巡らせて生きていく。

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