月収1/10の未来
将来はサラリーマンになっているか,バスケットボール選手になっているか,どちらかの未来を僕は生きているだろう。
小学校の卒業文集で,将来の夢をテーマにした作文の終わりを私は確か,そのように締め括っていた。
しかし,昨日は娘とコンビニまで散歩していた。
平日昼間なのに。
少年が思い描いたどちらの未来でもない。
老後のおじいちゃんが,孫の面倒を看るような生活が3年近く続いている。
いや,続けさせていただいている。
時を遡ること約3年前。
私は文集で予言した通り,サラリーマンをしていた。
バスケットボール選手になる夢が叶わなかったことなど頭をよぎる暇もなく,眼前の業務に忙殺される日々。
大学卒業後に就職した大手企業に勤めること十数年。
その間に職場結婚を果たし2人の子供に恵まれ,一般的には幸せに映るだろう生活を手放したくない,いや大黒柱として手放してはいけない。
そんな主たる生計者の責任と,精神をすり減らしてまで働きたくないという我儘の狭間を行き来する毎日。
気づいたら私は,洋服屋のパートタイマーになっていた。
異世界に転生した訳ではない。
自らの意思と寛大な妻の理解により,主たる生計者の責任を放棄したのである。
ずっと蟠りを抱えたまま,定年まで一度も転職せずに後悔しないだろうか。
別に現状から逃げてもいいじゃないか。
何とかなるさ。
そうだ,どうせなら興味ある分野の扉を叩こう。
京都に行く軽いノリで転職した。
唯一の趣味と言える洋服に関わる仕事を探そう。
門外漢,経験ゼロ,三十代半ば過ぎ。
役満だろうが,三振だろうが関係ない。
今の仕事が片付いたらとか,もう少し子供が大きくなったらとか,都合良くそんな日は来ない。
そう思い,裸一貫で隣町にある洋服屋の扉を叩いた。
時間軸を現在に戻し,2024年11月現在。
土日祝のみ出勤するパートタイマーとして,洋服屋で働く生活を3年近く続けている。
いや,続けさせていただいている。
月収は1/10になった。
洋服屋に在籍しているにも関わらず,自分の好きな洋服は買えなくなった。
ショッピングへ出かける回数も減った。
大好物の納豆もディスカウント品を率先して選ぶようになった。
当たり前だ。
大黒柱の任を解してまで,選択した未来である。
財布の紐を固く縛らざるを得なくなることは容易に想像できていた。
その代償に得られる恩恵。
それは家族と過ごせる時間。
触れ合いのこころ。
青雲。
寒空の下,昼間から娘と散歩できるなど,多忙なサラリーマン時代の私には想像できなかった。
そして,バスケットボール選手を夢見ていた少年にも。
一説には,子供が18歳になるまでに共に過ごせる時間は3〜4年しかないらしい。
先のことは分からない。
だがしかし,月収1/10の未来を選択したことに微塵の後悔もない。
コンビニの高級納豆を躊躇なくカゴに突っ込み,パートタイマーの実質収入を減少させようとする娘の隣を歩けるのだから。
実家に帰ったら,卒業文集に書き加えよう。
カリスマパートタイマーと。
以上,主たる生計者に頼らずに済む未来が訪れますように。
2024/11/27(水) PM2:11記