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読了記録 2024

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#漱石

『漱石俳句集』坪内稔典編

漱石が子規に師事して俳句を詠んでいたことは有名だけれど、まだ作家として活動する以前、子規によって期待される俳人として取り上げられていたそうで、漱石は作家ではなく俳人としてまずは文壇デビューしたことになる。漱石にとって俳句は小説執筆の余技ではなくて、創作の原点だった。

初期作品の『猫』における諧謔や、『草枕』における趣味的世界は、俳句の世界から出発した漱石においては必然だったわけだ。

作家として

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『続明暗』水村美苗

Amazonの書影はちくま文庫だけれど、新潮文庫で読みました。旧仮名遣いの奥泉光の『「吾輩は猫である」殺人事件』とは違って、『続明暗』は新潮版では新仮名遣いに改められている。親本のちくまでは旧仮名らしい。

未完で終わった『明暗』の続きを書くという野心作、それをデビュー作として上梓するというのもすごい。

文体は漱石を模倣しつつ、物語としては水村美苗の世界になっている。だから、漱石らしくない、とい

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『「吾輩は猫である」殺人事件』奥泉光

単行本が出たのは1996年で、出てすぐに読んだので30年近くぶりに再読。

初読時の興奮の記憶は鮮やかで、この作品にノックアウトされてその後奥泉光を熱心に追いかけてきたけれど、やはりこの作品が奥泉光の原点なのだなあ。奥泉氏自身、この作品を書くために作家になった、とまで言っているくらいだ。

読みどころの第一は、漱石の文体の見事な模倣。まぁほんとに、よくぞここまで、と讃嘆感嘆することしきり。インタビ

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『明暗』夏目漱石

初読時には退屈だなあくらいにしか思わなかった作品だけれど、今回読み直して、何と言うかこう、ヒリヒリするような緊張感漲る場面が多くて、弛れることなく読まされた。

特に一つのクライマックスは、津田の病室での延子と秀子の火花の散るやりとり。こんなすごい心理的バトル、読んだことない。

『こころ』までの漱石と大きく隔たっているのは、作品が一本の屋台骨で支えられているのではなくて、複数の視点から光が当てら

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『こころ』夏目漱石

言わずと知れた近代日本文学の金字塔。

何度か読んできた作品だけど久しぶりに再読してみて、これまで以上にのめり込んで読んだ感。

ずっと漱石作品を時系列に読んできて『こころ』を読むと、ここで漱石の作品世界が一段の深まりを、あるいは高まりを見せることがよく分かる。

これまで僕は『行人』を最も好みの作品と思っていたけれど、今回の再読で『こころ』がもっとも好きだと感じた。一人の知識人の自滅を見事に描き

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『彼岸過迄』夏目漱石

“久しぶりだからなるべく面白いものを書かなければ済まないという気がいくらかある。”(『彼岸過迄』について)という気負いのもと書き出されたこの作品は、いろいろ深読みも可能なんだろうけれど、素直に受け取れば、いさかか破綻した構成で、漱石の意は十全には尽くされなかったのだろう。

探偵趣味と浪漫趣味《ロマンチック》旺盛な語り手・敬太郎は、前半はそのキャラ設定のとおり旺盛な好奇心で活動するのだけれど、後半

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