探究ブーム
どうやら初等教育の世界では今や「探究ブーム」が起きているようだ。
日本の学校の学習指導要領はおよそ10年に1度という頻度で改訂されるものらしいが、前回の改訂直後は、「アクティブラーニング」というワードがかなり聞かれるようになり、
私が岐阜県の教育ビジョン策定委員をさせていただいたその頃、
見学した学校には「アクティブラーニングルーム」なるものが設置され、その部屋では”特段に”(主体的・対話的な深い学び)が行われるというものがあった。
とはいえ、学校のカルチャーそのものが、色濃く教師主導型で成り立ってきた中で、
いきなり「アクティブラーニング」と言われても、いまいちピンとこない感じは否めなかったと記憶している。
それからおよそ7年が経ち、今やバズワードはアクティブラーニングに代わって「探究」だ。
私がIB教育に取り組み始めた頃(10年以上前のこと)、「IBの教育は探究型の学びです」と言っても大抵の人が首を傾げていたような状態であった。
一方で、あれだけ流行っていたアクティブラーニングという言葉がなぜ、あまり聞かれなくなったのか・・・それは良くわからない。
この記事の表題で「探究ブーム」と書いたのは若干の皮肉も込めている。ブームだから一過性で、しばらくしたらまた無くなるのではないかという意味合いだ。
個人的な予想では、3年後に予定されている次回の学習指導要領の改訂では間違いなく「探究」という言葉が出てくるとみている。
昨年12月、渋谷区がアナウンスメントを出した。この4月から、区内のすべての公立小中学校において、午後の時間を「探究の時間」とするらしい。「シブヤ未来科」という名称だそうだ。
文科省側では、授業時間を各5分程度学校の裁量で調整しても良いことにするなどして、それぞれの学校の自主性を重んじる学校教育のあり方を徐々に進めているようだが、それにしても渋谷区の取り組みはなかなか大胆なものであることは間違いない。
早速に色々な賛否を含めた議論が沸き起こっているのは想像に難くないが、一歩を踏み出そうと決めた渋谷区の決断は私は素晴らしいと考えている。
周りの様子をみて、どこかがやればうちも・・などという追従型の組織よりも、うんと覚悟を感じる。
最初から完璧などあるわけがない。
やってみて、思い通りにいかなかったことはその原因を考えて改善し、一歩一歩子ども達のリアルに合わせていけばいいと思う。
うちもかつてIBの認定校を目指すのだと保護者に説明会を持った時、
認定校になるには最低でも2~3年かかると話すと、「うちの子はモルモットなのか」と激怒していた保護者の人がいた。
うちでは経験がないが、新卒の先生が担任になると「なんでうちだけ新人なんだ」と不満をぶつけてくる親がいるらしい。
渋谷区の保護者の皆さんには、学校教育を子どもたちの為に、より良いものにしたいと考えて覚悟を決めた教育委員会の決断をぜひサポートしてやってほしい。
一緒に問題解決の方法を考えようとする地域コミュニティーがあれば、それさえあれば、あらゆる問題はこえていけるはずだ。
ところで「探究」とか「探究型の学び」、「探究型の授業」とは一体何のことなのか、それを考えている人は多くいるはずだ。
現場の教師たちも、自分なりの解がある人もいれば、未だ五里霧中だという人もいるだろう。
IB教育に10年以上関わってきた、こんな私も、完璧な解を持ち合わせているわけではない。
私なりの考えで良ければ恐らく今後、折につけてこのNoteでシェアすることは出来ると思う。
今回の記事であえて言及するとすれば、
探究型というのは必ずしも答えがひとつである解に向かっていく学びではないということだ。
また、数学のように正解が仮にひとつであったとしても、それにたどり着く論理的思考を何パターンも考えようとさせるプロセスを重視することだ。
つまりはDeep thinking(深く考える)、Critical thinking(批判的、多面的に物事をみる)を通して問題解決スキルを身につけるための学び方だといえる。
問題解決スキルがあるかないかは時に子ども自身の命を救う。
日本人にとって3月11日は、アメリカ人の9.11同様に忘れられない日だ。
まだ読んだことがないという方はぜひ「釜石の奇跡」をお勧めしたい。
釜石市の教育委員会は、津波に子どもたちを備えさせるため、防災教育に詳しい大学の先生と連携し(この先生が何と岐阜の出身!)、
算数の速度の問題を津波の到達速度に置き換えて演習したり、古くからつたわる「つなみてんでんこ(津波が来たら家族などを決して待つことなくひとりひとりで高台にあがる)」を事あるごとに子どもたちに話していたことで、
津波が起きた当日、たまたま釜石小学校は半日授業で子どもたちはそれぞれ自宅にいたり、友達と遊びに行っていたりしたにもかかわらず、
全員が自主的に避難して犠牲者が出なかったという「奇跡」につながったという話だ。
「自分の頭で考える力」、それを身につけさせることが自らの命を救うことになる。
あらゆる場面を想定させ、考えさせる教育を促した釜石市の教育こそ、
真の探究型の学習といえるのではないか。
よって、探究型とは学びのスタイルのことではなく、子どもたちに「自らの頭で考え、行動する力につなげていく学びであるかどうか」であるはずだ。
そしてIB教育はその先進モデルとして、今後、日本の学校教育にさらにその知見を共有していくことになる。
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