ドイツ歴史家論争(+永井陽之助)
ドイツの歴史学者エルンスト・ノルテは、ナチによる犯罪の特殊性・唯一性を否定する人物だった。
彼の主張を発端に、1986年から翌年にかけて「ドイツ歴史家論争」が展開された。
ノルテは、ナチの虐殺には前例があり、それはソ連のボリシェヴィキによる虐殺だとする。
彼は言う、
さらに、論敵の哲学者ハーバーマスに対しては、
私がノルテの存在を知ったのは、ギ・ソルマン『二十世紀を動かした思想家たち』(新潮選書)という対談集を読んだときだ。
彼の主張が批判を集めるのは当然と思ったが、その冷めた見方はニヒルな雰囲気を漂わせており印象に残った。
個々の論証には難が多いようで、前出の『過ぎ去ろうとしない過去』所収のユルゲン・コッカによる批判は説得力がある。
また、この本には、1986年に予定されていたが行われなかったノルテの講演の原稿「過ぎ去ろうとしない過去」が載っている。
中止された理由は、本書を拾い読みした限りでは分からなかったが、たまたま相馬保夫・東京外国語大学名誉教授の文章を読んだところ推察できた。
相馬氏はベルリン自由大学への留学を振り返り、ノルテ教授のリレー講義が、学生らの非難とヤジにより実施できなかったと語っている。
これはヒトラー政権掌握50周年のことらしいので、1983年の出来事と思われる。
歴史家論争の開始前から非難轟々だったようだ。
ノルテの相対主義的なナチズム観は暴論なのか、それとも正論なのか?
少なくとも誰もが納得するような中立的な意見ではなく、イデオロギーとしては保守に属する歴史観である。
その証拠に、保守派と言われる政治学者の永井陽之助も、レーニンとヒトラーを比較した文章で次のように述べている。
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