スピンスピンスピン、おほほほほ… センター試験・現代文
10年ほど前のセンター試験の現代文で、狂気的な文章が2年連続で出題されたと最近ネットで知った。
気になったので、両方とも読んでみた。
まず、2013年の牧野信一「地球儀」。
わりと私小説風の作品だった。
侘しさや寂寥感が伝わってくる。
作中の「スピンスピンスピン」というのはタイトルからして、地球儀が回るイメージを想起させるものだろう。
渡米したまま帰らない登場人物への思いが、そこに重ねられていると思われる。
他にも、「シイゼエボオイ」などのカタカナ英語に面食らうかもしれないが、それらを理解できなくとも解答できる問題だったと想像する。
むしろ難点は、語り手の父親が家族を日本に置いて逃げるように渡米したっきり、という特殊事情がストーリーの前提となっているところだ。
これは、作者の幼少期の体験が元になっているらしい。
柄谷行人によると私小説とは、作者の実体験を描いた作品だけでなく、作者の来歴を知らないと理解できない作品をも指す。(『倫理21』)
当時の受験生のほとんどは牧野信一の幼少期など知らなかったはずだから感情移入しにくかっただろう。
出題者は感情移入しにくい作品を敢えて選んで受験生の読解力を試したのだろうか。
続いて、2014年の岡本かの子「快走」。
こちらは、爽やかで親しみやすい作品だった。
最後のほうに出てくる「おほほほほほほほほほほ」という笑い声は、古風ではあるが奇妙というほどではない。
他の岡本作品も読みたくなった。
受験生はもっと文学に親しみを持つべきだ。
日常生活で目にしない表現に出会ったからといって「意味分かんねえ」と唾棄しないでほしい。
寛容な態度で本文に歩み寄れば、読解もしやすくなるであろう。