映画『羅生門』への賛否両論
黒澤明監督の『羅生門』は、殺人事件の当事者たちの証言を三者三様に描き出し、真実の唯一性を揺るがす作品として名高いが、私の友人によると重要なのはそんなことではないらしい。
注目すべきは、第四の証言において、京マチ子演じる若妻が見せる狂気じみた女性性なのだという。
この第四の証言は、原作である芥川龍之介の「藪の中」には存在しない。
脚本を手掛けた橋本忍による創作である。
私自身は、最初に『羅生門』を観たとき、第四の証言は蛇足としか思えなかった。
第三の証言で完結する原作の凝集力と比べると、映画のほうは冗長に感じてしまう。
だが観る人によっては、第四の証言こそがベストパートというわけだ。
不思議なものである。
私の場合は、原作の魅力が反映されているシーンに感銘を受けた。
とくに霊媒師を通じて被害者が証言する場面。
芥川は本当に死者の声を聞いたのではないか、と思うほどの迫真性である。
戦慄を禁じえない。