啄木とPoe (with 追記)
石川啄木(1886-1912)の第一歌集、『一握の砂』(1910)。
印象的な題名だが、これはポー(1809-1849)の詩から来ているのだろうか。
彼の“A Dream within a Dream”(「夢の中の夢」)には、次のような箇所がある(訳は引用者、以下同)。
And I hold within my hand
Grains of the golden sand ――
(そして私は手の中で握る/黄金色の砂粒を――)
また、『一握の砂』の'表題作'と思われる一首を読んでみると、
頬(ほ)につたふ
なみだのごはず
一握の砂を示しし人を忘れず
とある。
一方「夢の中の夢」では、先ほど引用した箇所の後はこう続く。
How few ! yet how they creep
Through my fingers to the deep,
While I weep ―― while I weep !
(なんて少ない! しかも流れていってしまう/私の指をすり抜けて深い所へ/私が涙するうちにーー涙するうちに!)
「なみだ」と'weep'(涙する)がリンクしている。
偶然だろうか?
だとしても啄木の歌は、ポーの詩のアンサーソングのように見える。
ポーのは、砂を握り涙を流す人の視点。
啄木は、それを目の前で見ている人の視点だ。
豪華な共演である。
参考文献
石川啄木『一握の砂・悲しき玩具』新潮文庫
『対訳 ポー詩集』岩波文庫
【追記】
『一握の砂』には、次のような歌もあった。
いのちなき砂のかなしさよ
さらさらと
握れば指のあひだより落つ
やはり、「夢の中の夢」と似ている。