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uzn23777
凡才人間
「好きな果物はなんですか?」
「ナスです!」
家族に激震が走った。
家族も質問者も目を丸くして視線を自分へと向けた。
これは幼い頃の話。
幼稚園の面接でそう答えたらしい。
記憶にはまったくない。
別にナスが好きだったわけでもない。
今もみそ汁に入っているナスしか食べられないし、ナスが好きな時期があったわけでもない。
ナスと他の果物を勘違いしていたわけでもない。
幸いご縁をいただきこの幼稚園に入園することができた。
しかし、なぜナスだったのかは謎が残ったままだ。
何をやってもだめだった凡才。
絵も描けない。音楽もできない。ただのどこにでもいる凡才。
でもこんなとんちんかんで、的外れな返答をするような人間が、
光栄にも文学賞で最優秀賞をいただく日が来るなんて誰も想像なんかしない。
訳のわからないセンスが役立ったのかもしれない。
人生何が起こるかわからない。
たとえ好きな果物がナスでも。
だからおもしろい。
でも今の自分がいるのは、これまで関わってくれたすべての人々がいるから。
きっと才能を否定する人がいれば今の自分は決していなかっただろう。
だから
才能の芽が摘まれませんように。
誰もがありのままの自分を表現できますように。
どこに才能があるかなんてわからない。
それが芸術だったり、音楽だったり、スポーツだったりと
どこにきっかけが落ちているかもわからない。
だけど可能性は無限にある。
だからおもしろい。
幼稚園の先生方
卒園してもう10年以上が経ちました。
好きな果物はナスと答えたような自分が今ではもう高校生です。
お元気ですか。
不器用だった3歳の子どもは16歳になりました。
低かった身長も伸びて、もう先生方の身長を抜かすほどになりました。
小さかった手形も倍以上に大きくなりました。
いつかお会いできる日を楽しみにしています。