今日娘が入院しました⑤
長い廊下を抜けたところに売店がある。いくつか買ったほうが早いものがあるので、迷わず飛び込んだ。
お箸セットは可愛いピンクの花柄に…これで娘の気持ちが少しでも晴れるなら。
歯磨きセットもピンク色。お腹は空いてないけど、何か食べないと持たないな…運転しながら食べられる小さなパンとコーヒーを買って病院を出た。
運転しながら、効率よく荷物をまとめるシュミレーションが頭の中で始まる。
私自身も何回か入院していて入院グッズ的なものはある程度揃っているので、台所のあの棚と洗面所のあの引き出し、それから娘の部屋からアレとコレと…と思い巡らせながら、ふと娘の顔が思い浮かんだところで気が付いた。
「そっか、日を空けると入院嫌がるから今日突然だったのかも」
考える時間があったら、たぶん娘はうんと言わなかった。家にいるほうが自由だもの、入院したら出来なくなることを並べあげて拒否したに違いない。
突然の入院は辛いけど、これで良かったんだと自分に言い聞かせる。
きっと病気を克服して、いつもの娘に戻って帰ってくるんだから。
家に着いた頃にはもう15時を回っていた。なのに、シュミレーションした割には時間がかかった。娘のものがさっぱり分からない。LINEで持ってきて欲しい物の追加が入る。いつも使ってる美容液ってどこ??場所を聞いても娘が上手く説明出来ないのは、病気のせいなんだろうか。時間がどんどん過ぎていき、焦って娘のドレッサーの引き出しをひっくり返したり、荷物を入れるいつものバッグが見つからなかったりで散々。
もう16時やん、道混んでないといいけど…
病院に着いたのは16時50分。面会終了まで10分しかない。長い長い廊下が恨めしかった。本当は病棟に入る前に荷物チェックだが、それをしてたら面会出来ない。看護師さんが病室で娘さんとチェックしましょうと気を利かせてくれた。
病室の娘のベッドの上で持ってきた荷物を広げて、危なそうな物は看護師さん預かりになって、そんなやり取りしてただけで17時になってしまった。
「何か欲しい物あったらLINEしてね」
「テレビ見たかったら、遠慮しないで看護師さんに言ってテレビ付きの床頭台に変えてもらうんだよ」
病棟の入り口まで歩く廊下で、見送りについてきてくれた娘に思いつく限りの言葉をかけるが、頷くだけの娘。
あっという間に入り口に着いてしまった。
「じゃあね、またすぐに会えるから」
笑顔を作ったつもりだったがどうだっただろう。手を振ったら振り返してくれたが、娘の顔に笑顔はある訳もなく、じっと私を見つめたまま看護師さんによってドアは閉められてしまった。
また長い長い廊下、歩き出してすぐ涙が出てきた。
朝からずっと緊張しっぱなしで張り詰めていた糸も切れたのだろうが、病気を治す為だとわかっていても、こんな形で娘と離れ離れになってしまった悲しさ、とうとう入院するまでに悪化してしまったことへのショック、娘を支えてあげられなかった悔しさ、開業医への怒り、先の見えない不安、もうグシャグシャだった。
すれ違う人がいても泣くのを堪えられず、なりふり構わず泣きながら歩いた。
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