若い女性のための文章の書き方②
そんな悪くない文章を書くのに、新卒の彼女はエライ人に評価されませんでした。彼女に足りない部分があるとしたら"マッチョみ"だったかもしれない。これは文章におけるマッチョとの闘い……そんな、しんどい話の2回目です。
ダメ文章を良くしていく
さて、前回は文章を短くする力は持っておきたいという話で、例文を示したところでした。"文章を書く体力"が不足している人たちによくある、そしてよく直させられる文章です。
なんだこの、ニュース原稿だかコメディ台本だからわからん文章は! って感じもしますが、それはさておき。
この例文のマズイところは、主に次の3点です。
①主語がなんだかわかりにくい。
②主語と述語の間が長い。
③よけいな情報が多い。
①主語は「役員ら」なのに文の中盤にあるから気付きにくい、②「役員らは」から「頭を抱えた」までの間に、社長が子会社社長を宣言したこと、さらにそれが社長の愛人という説明が入れ子になって挟まり、3重構造になっている、③この文の主題(=役員らの受難)からして日付や場所など会議の詳細は邪魔、という感じです。
また、細かいところでは、「"新社長に"~女性を"新社長に"する」というくだりは「新社長に」が重複しているうえに、"てにをは"もおかしくなっています。「新社長に~女性を据える」とか「~を新社長にする」といった表現に改める必要があるでしょう。一文が長くなるほどこの手の単純ミスが増え、しかも見直しで気づくのも難しくなります。
ただ、会議の詳細については、"同じ一文のなか"には不要であるものの、これが記事ならどこかに書かなければいけません。ニュース原稿などでは「5W1Hを必ず入れろ」と言われます。
ただ、だからといって一文にまとめろと言われているわけではありません。「ただ指示に従うだけ」という姿勢は、文章に限らずあらゆるモノ作りの足を引っ張りかねないので注意が必要です。
こういったポイントを見つけて、わけるべき文章をわける、ということをすれば読みやすい文章になります。
では実際に、直してみましょう。
主語を「会議」、「社長」、「役員ら」にして3文にわけ、それぞれの主語をほぼ先頭に持ってくることでわかりやすくなりました。
このような見直しを自分でするのはけっこうタイヘンで、きちんとやるには"客観性"が必須です。だからこそ、前回お話したように「頭をリセットしておくこと」が超重要になります。仕事の場合だと、自分で見直せないと他人(上司や編集者など)に直されてばかりになり、「面倒なヤツ」と思われてしまいます。
とはいえ、経験が浅いうちはミスのない文章をいきなり書くのは難しいもの。若いうち、最初の1年くらいなら初回のミスは見逃してもらえるので、同じことを二度繰り返さないようにするのが大切です。
見せ方にあわせて流れを変える
前述のとおり上記の例文はニュース原稿のようなコメディ台本のような曖昧なものでした。これを、それぞれ「らしく」して、より固い文章と、より緩い文章にしてみましょう。
まず、お固いニュース原稿風にする場合は、こんな感じ。
まず、原文にあった役員らの反応(=頭を抱えた)は比喩にすぎないのでアウトです。「困惑する様子を見せる役員もいた」というかたちの"ギリギリ事実"に置き換えています。あと、ついでですが最後は出席者の誰かがリークしたものとわかる書き方になっています。ソースは大事なんです。
主語は3文それぞれ異なりますが、すべて「場」を中心にしていることで、主観を排し、状況を客観視した文章にまとめています。もしこの様子を映像にするなら「画面奥に壇上の社長、手前に出席者の列」のワンカットでしょうね。うん、つまらん。でも、そういうものです。
一方、緩くコメディ化する場合はどうでしょう。
できれば文章は、おもしろくしたい。おもしろくないと死んでしまいます。やってみましょう。
おもしろくはないか。ちょっと飽きてきましたね。
同じ内容でも、違う流れで表現できることだけわかってもらえればOKです。がんばって生きていきます。
短く能書きをまとめると、頭を抱える原因である「愛人」の件は"オチ"としてうしろに持っていき、そのうえで「役員らが頭を抱えた」の部分は"フリ=謎の提示"として前に持ってきました。読み手に「なぜ?」と思わせて興味を引き、次の文に関心を向けているわけです。「ミステリー風」と言った方がよかったかもしれません。
ニュース原稿風とは視点が違い、場ではなく人(役員、愛人)に注目しているため、余計な情報をざっくり削り、短くできるのがわかります。こちらを映像にするなら、愛人のビジュアルがほしくなります。
ところで今度は「役員らは~頭を抱えた」の間に「社長の発表」が挟まれていますが、短いので気にしません。こういうのは「時と場合による」のですから、「直し方」さえ身に着いていればいいんです。
マッチョはオチが苦手?
前記のようなコメディ的・ミステリー的な文章を考えるときの"オチ"を軸にした表現は強い武器になります。というのも、どうやらマッチョはオチが苦手らしいんです。
マッチョというと、現役だとしてもいまや随分高齢となったひとたちの価値観だと思われるかもしれませんが、むしろ昨今の方が文章に筋肉を求められる傾向にあります。
「記事はタイトルが大事」「とにかく"引き"を強く」というのが昨今のマッチョです。言い換えれば、「先手必勝だ、デカイ声を出していけ!」ということですからね。これは比較的涼しい顔をしているnoteコミュニティにも潜んでいることです。ビジネスが、スキームが、みたいな美しい言葉とともにマッチョはやってきて、そばでムキムキほくそ笑んでいるのです。
彼らの本質はナルシズムですから、きれいな話には要注意です。そして、自分とは違う美しさを嫌います(これがやっかい)。
マッチョは言います「まず、手に取ってもらえなければ意味がない」と。だから文章のなかで表現される「結論」をタイトルに持ってこようとします。「こんなスゴイことがあったんだー!」と。
「まず、手に取ってもらえなければ意味がない」は、そのとおりでしょう。でも、結論で引きつける方法では、本文を読む価値がなくなってしまいます。
だからこそ、内容全体のなかから"謎の提示、フリ"の部分を見い出して、それをタイトルなどで"引き"として使うことが重要です。"結論、オチ"を保存することで、本文を読んでもらえる構造にするわけです。コメディ化・ミステリー化の例を出したのは、そういうわけです。フィクションのための表現プロセスが、ノンフィクションでも役立ちます。
さて、長くなってきたので今回はこのあたりまでとして、次回は文章力を高めるうえで役立つ、簡単なトレーニング方法について紹介します。
もちろん汗臭くないやつですから、安心してください。
(つづく)