【短編小説】メメント モリ 六章 新月の夜
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何が起きているのか理解が追い付かず、ただ目の前に繰り広げられる信じられない光景を沙織は眼で追うことしかできなかった。二つの影は激しくぶつかり合い、周囲にある物を巻き込んで激しく散乱させると、そこから聞こえてくるのは荒い息遣いと鋭い拳、そして呻き声であった。
「直人! 夫人を頼む!」
渡辺は有馬康弘の胸倉を大きな手で掴み、そのまま壁に押し付けると、もう片方の手で携帯を取り出し、
「間に合った! ああ、