大岡昇平『俘虜記』を読む

お久しぶりです。気がつくと3ヶ月ぶりの投稿となりました。その間はさまざまなジャンルの本を読みながら日々を過ごしていました。最近読み終えた本は大岡昇平さんの『俘虜記』です。この本が執筆されるきっかけとなったお気に入りのエピソードをご紹介します。

比島(フィリピン)から復員してきた大岡さんに対して小林秀雄さんが

「よく帰ってきたね、助かってよかったなあ。ほんとによかった。ほんとによかった。」

と言って再会を喜び、大岡さんに従軍記を書くように勧めます。そして

「他人の事なんか構わねえで、あんたの魂のことを書くんだよ。描写しすぎるんじゃねえぞ。」

と言ったエピソードが好きです。

(「わが師わが友」大岡昇平 創元社 より)


小林との交流は長く、出会いは大岡が高校生の頃まで遡ります。年上にも物怖じせず発言する大岡は、7歳年上の小林の元でフランス語や文学を学んでいました。そうして河上徹太郎や中原中也、青山二郎をはじめとした人物を知ることになります。

青春時代を文学や芸術を愛する人々と共に過ごしてきた大岡さんですが、戦前は今ほど世間で名前は知られていませんでした。そんな彼に転機が訪れます。それがフィリピンへの出征でした。35歳だった大岡さんはフィリピンのミンドロ島へ向かいました。

そこでの経験が『俘虜記』に綴られています。

もしこの文章を読んでいる方で「戦争文学読んだことないよ」とか「なんだか怖そう」と思っている方がいれば恐れずに是非一度読んでみて欲しいです。そこには"事実を記すこと"を追い求めた作者の思いが溢れています。


そのような経緯で書かれることとなった『俘虜記』を読んでみた感想は、あえて詳しく語りません。読んで思うところは人それぞれであり、自分の目で確かめてみるべきだと思ったからです。

一つだけ感想を述べるとすれば、収容所という狭い世界の中でも、社会の縮図が見られるのだということを実感しました。みな同じ食料や給与を受けているのにそこで各々のエゴイズムが生まれると格差がどうしても生じてしまう。それは社会から分断された収容所でもあまり変わらない。そんなことを実感しました。


読書の秋に『俘虜記』はいかがでしょうか?長すぎて読む時間が無いよ!という方は「俘虜記」が一部収録されている『靴の話 大岡昇平戦争小説集』(集英社文庫)をオススメします。こちらは短編集のようになっていて、出征前の奥さんとのやりとりや比島へ向かう時の船の上での出来事など印象的な話が綴られています。個人的見解になりますが「俘虜記」は高大学生以上、「靴の話」は中学生からでも読めるのではないかと思います。


最後まで読んでいただきありがとうございました!




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