【馬と人の関係】アマデウスが教えてくれたこと
平成8年(1996年)夏。千葉県九十九里。
いつもように相棒の白馬アマデウス(メス11歳)と共に、砂浜を外乗していた時のこと。
海遊びに来ていた20人くらいの小学生たちに囲まれたことがありました。
馬の視界は350度、真後ろの10度は死角です。ずかずかと死角に侵入すると、後足で蹴られることもあり、とても危険な状態です。
それなのに…、子どもたちは
「お馬さんのしっぽ、なが~い。」
「背がたか~い。」
「危ないから馬から離れて!」。
馬上の私の心配などおかまいなしに、アマデウスの胴体に触ったり、
しっぽを触ったりしています。
アマデウスがいやがって子どもを蹴ったり、動いた拍子に子どもの足を踏んだりしたら、子どもたちは大けがします。
危ない!
私はさっと馬を降りて、子どもたちに言いました。
「お馬さんに乗ってみる?」
この状態で、「馬から離れなさい。」と言っても通じる雰囲気ではなかったですし、また、私が馬を進めても、子どもたちが後を追ってきたら、もっと危ないですから。
いっそのこと、アマデウスに乗せて引馬をしてあげた方が、順番待ちの秩序が生まれると思ったのです。
子どもたちは大喜び。自然に一か所に集まって、自分の番を待っています。
馬上では神妙な顔をする子ども、笑う子ども、遠くを見つめる子ども…。
反応は様々でした。
最後の順番の子どもをアマデウスの背中から降ろしたときに、
年配の女性が走って来ました。
「すみません。子どもたちがご迷惑をお掛けしました!」と言いつつ、子どもたちの集団の中に入っていき、子どもたちをたしなめるその女性。
「先生、お馬さんに乗ったよ!」嬉しそうに報告する子どもたち。
(この人は先生だったのか。)
その先生が私に言った言葉が、「本当にご迷惑をおかけしてすみません。
でも、子どもたちのこんなにキラキラ輝く目は、養護教諭を30年やってきて初めて見ました。本当にありがとうございました!」
先生の言葉とその目、子どもたちの目に、私はなぜだか胸が熱くなり、
「先生も乗ってみますか?」とお誘いし、先生にもアマデウスに乗って頂きました。
「わっ」とか「きゃっ」とか、先生が驚く様子を見ていた子どもたちは大はしゃぎ!!
やがて馬上から見る風景にみとれて、静かに馬の揺れを感じていらっしゃる先生を見て、おとなしくなる子どもたち…。
そういえばアマデウスは…
はじめから私の心配など気にもとめていない様子で、
子どもたちとのかかわりを楽しんでいたような…。
このとき、私は気づいたのです。
これが馬という生き物の真実だと。
アマデウスが教えてくれた大切なこと。
あの日から20年以上経過して、ホースハーモニーが生まれるきっかけになった出来事でした。
※ホースハーモニーという命名は明星大学教育学部星山麻木教授
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