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「体験」をめぐる格差の現状認識をしよう。(今井悠介『体験格差』を読んで)
体験格差というタイトルはキャッチーゆえ、なんとなく本書で記されていることも想像しやすいかと思います。
でも改めて、「体験格差とは何か?」「実際に体験格差はどのような形で表出しているのか?」を記したのが、本書になります。
マクロデータや、実際に体験格差を感じている親の具体例が提示されており、新書ながら読み応えがあります。子どもを持つ親ばかりでなく、未来を担う世代に対して思いを馳せるべく、ぜひ一読をお勧めします。
『体験格差』
(著者:今井悠介、講談社、2024年)
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「お金」があっても体験格差は埋まらない
東京都知事選で僕が違和感を抱くのは、現職の小池さんの評価として「子育て支援に手厚かった」とされているからです。確かに給付金など、所得制限を撤廃しつつ多くの方に「子育て」を名目とした支援がなされています。
もちろん「お金」は大事です。でももしかしたら、お金以外にも「格差」が生まれる要因があるのではないでしょうか。
この本で書かれているのは、「時間」というリソースもまた不足していること。本書では何名かの親にインタビューを敢行しており、そのほとんどが「(お金があっても)送り迎えの時間を捻出できない」「(体験に使う時間があったら)仕事に充てないと生活がたちゆかない」といった悩みを有しています。
例えば、こんな声が収められています。
女の子二人が週末にダンスを習っていた時期があったんですけど、日本の風習というか、悪習というか、親も一緒にずっといないといけなくて。
でもそうすると、その時間はほかの子たち(この親は五人の子どもを養育していた)がほったらかしになっちゃうじゃないですか。陰で犠牲になってるほかのきょうだいもいるわけなので。
男の子たちがスポーツ少年団に入っていたときも親の負担が大きくて。下の子たちがまだちっちゃかったのに炎天下で連れていかないといけないのも大変でしたね。
僕は今日、息子ふたりを連れて隣町の市営プールに出掛けました。(これもまた本書でいう「体験」です)
6歳の息子はビート板を持って「ながれるプール」を泳ぐことができました。でも3歳の息子はアームリングをつけないと溺れてしまう。泳ぐスキルやペースもそれぞれ違うので、ふたりをどのようにケアすべきか、なかなか大変な二時間でした。
このように、親は体験にまつわる色々な悩みを抱えているもの。現状認識ができなければ、結局は「とんちんかん」な支援に終わってしまうでしょう。お金だけ渡せばいいという話ではないのです。
ファクトベースで体験格差の現状認識を整えていく
本書の素晴らしい点は、様々なデータが整理されて記されていることです。
著者の意見ももちろんありますが、私見をいたずらに挟むのでなく、ファクトやデータを提示しながら論を進めていく。データが苦手な方は読みづらいかもしれません。でもあえて筆者は、ファクトやデータを提示し、現状認識を整えなければならないと思ったのでしょう。著者の覚悟を感じます。
ぜひ実際のデータを本書で確認し、体験格差がはらむ問題点をともに抱いてもらえたらと思います。
『体験格差2』を読みたい
本書の中でも「体験とは何か」ということが語られていました。
ただ、個人的には「体験の機会だけを提供しても、プログラムの内容をきちんとデザインしなければ意味が薄れてしまうのでは?」と思ってしまいました。ざっくりいうと本書には、体験のUIが記されていて、UXまで言及し切っていないのです。
おそらく、「体験よりも学習が優先されている」という社会の認識がある中で、「体験をより有意義にするには?」という議論はいささか性急だと著者が考えたからでしょう。その判断を僕も支持します。
だからこそ、数年後に『体験格差2』という続編の形で、体験をいかにデザインすべきかを記してほしい。そうして初めて、体験という価値が本当に子どものためになるのだと思います。
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本書の感想を、Podcast「本屋になれなかった僕が」でも話しています。もしよければ聞いてみてください。(実は5年目に突入する古株ポッドキャスターな私です)
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