育児や教育に、トリックは存在しない(エスター・ウォジスキー『TRICK』を読んで)
今年4月に発売されたエスター・ウォジスキーさんの著書『TRICK』は極めて良書だ。
しかしながら、タイトルや副題により誤解・敬遠されてしまうのではないかと懸念している。(特に副題は、長いし胡散臭い)
僕がこの本を手に取ったのは翻訳者が関美和さんだったからだ。
彼女は『シェア』『MAKERS』『ゼロトゥワン』『ファクトフルネス』など数々の名著を手掛けている。「ならば面白いのかもしれない」と思い、読んだのだ。
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本書のTRICKとは、
Trust(信頼)
Respect(尊重)
Independent(自立)
Collaboration(協力)
Kindness(親切)
の頭文字をとっている。
例えばTrustの項では、このような警句が発せられている。
すべての親にわかっていてほしいことがある。デジタル時代が訪れ情報伝達が簡単になったことで、信頼が危機にさらされているということだ。そして、このことがわたしたちの生き方を変え、子育てのあり方を変えている。(中略)
子どもたちにいちばんよくないのは、人を信用するなと教えたり、過保護になりすぎて自立を奪い、自分で自分を伸ばせない人間にしてしまうことだ。子どもたちが世界に対して心を開き、人生の可能性を閉ざさないことこそ、親の望みではないだろうか?
まずは、とにかくはじめてみなければならない。恐れに立ち向かい、自分への信頼を取り戻し、世界への信頼をふたたび築く必要がある。
その取り組みは、家庭からはじまる。つまりあなたからはじまるということだ。
(エスター・ウォジスキー『TRICK』P75, 80より引用、太字は私)
まるで『7つの習慣』のインサイドアウトだ。
外に囚われることなく、まずは自分の内側の声に耳を澄ませることが大切だ。そしてCollaborationの項でも『7つの習慣』を思わせるような記述がある。
協力は、信頼と尊重と自立という強固な土台があってはじめて可能になる。また、生徒たちが情熱を持てるはっきりとした目標も必要だ。生徒が力を合わせ、お互いを指導しあう場を作るには、こうした要素がなければならない。わたしの生徒たちはこのスキルを毎日実践し、お互いを支え合い、教え合い、刺激し合っている。そんな生徒の姿に、わたしはいつも圧倒される。
(エスター・ウォジスキー『TRICK』P244より引用、太字は私)
TRICKとは、それぞれが独立しているわけではなく、相互に作用し合っている概念なのだ。
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諸説あるが、educationには「可能性を引き出す」という意味が込められている。「教える」という前提が込められた言葉よりも、エデュケーションの方が僕にはしっくり来る。
子どもの可能性を引き出そうと熱心になるあまり、逆効果を招いてはいけないと著者は説く。
自分で経験しなければ、十分に理解することはできない。それに、自分の力でやることもできない。だからわたしは「脇で見守るガイド役」に徹する。
とは言っても、子どもたちにわたしを無視してほしいとか、認めなくていいと言っているわけではない。ただ、子どもたちが自信を持って自力で何でもできるようになってほしいのだ。
もちろん、子どもたちの人生の一部にはなりたいし、愛され尊重される存在でもありたいとは思う。でも同時に、子どもたちには力を与えられたと感じてほしいし、自然に自分で行動できるようになってほしい。わたしは子どもたちを助け、励ますだけだ。主導権を握るのは子どもたちで、わたしではない。
(エスター・ウォジスキー『TRICK』P196より引用、太字は私)
お膳立てをし過ぎることで、子どもが自立する機会を奪うことにもなる。可能性を引き出すために必要な親の資質とは、具体的な行動ではなく、スタンスなのかもしれない。
何より大切なことは、わたしたちが子どもに伝える原則や価値観が人の道にかなっているかどうかであり、それが社会に広まることが望ましい原則や価値観なのかという点だ。わたしたちはみんな、コミュニティの一員であり、国家の一員であり、地球の一員だ。あなたは、次のその次の世代に受け継いでほしいことを、子どもたちに教えているだろうか?それはよりよい生活や文化や世界に役立つだろうか?
(エスター・ウォジスキー『TRICK』P58より引用、太字は私)
子どもに直接関与しないわりに、自らの一挙手一投足まで問われるのは息苦しさもある。それでも、息子に胸を張れるような生き方はしたい。
日々勉強であり、日々実践である。頑張ろう。
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*おまけ*
エスター・ウォジスキー『TRICK〜スティーブ・ジョブズを教えYouTube CEOを育てたシリコンバレーのゴッドマザーによる世界一の教育法〜』の感想を、読書ラジオ「本屋になれなかった僕が」で配信しています。
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