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言い表せない感情の強さ【2024創作大賞感想文】

2024創作大賞。
青豆ノノさんはどんな作品で臨むのか、毎日待ち遠しかった。今でも毎日、待っている。

そして遂に「読めた!」
泣き顔と拝読した誇らしさでXにリツイートする。

僭越ながら、わたしが感想文を書きたかった。

ノノさんが出品なさった作品を3つの理由で泣いた。


泣いた理由、その1。
4月末から毎日待っていた喜びで泣いて、
作品のやるせなさに泣いた。

『バースデーバルーン』は、
頭の大きな少女福ちゃんと福ちゃんの兄なーなを
中心としたショートストーリー。

 頭の大きな福子は、頭でっかちだった。
 中学・高校と順調に進学した福子は、そのころやっと四頭身になった。
 高校では少し色気づいて、桃色に染まるリップクリームなんかを塗るようになった。

福ちゃんは賢いが不機嫌だ。
まなじ頭が良いので可愛げがない。
それでも福ちゃんは年頃になるとリップを塗るなど色気付く。
でも……。


泣いた理由その2、福ちゃんの家族へだ。

父親は家庭から逃げる。なーなは母親から逃げる。

母親はこの二年半の間に、ため息ばかりつく人になっていた。母なりに不満が溜まっているようで、ずいぶんと老け込んでいた。父は今まで通り会社勤めを続けていたが、朝が早く、夜は遅い。さらに、仕事関係の付き合いが再開したのをいいことに、家族のことは知らんふりしているようだ。
 僕はそんな話を母から小声で聞かされながら、自分は父に意見できる立場にないと、ただ母の話に頷くだけだった。

夜に泣いている福ちゃんへ声をかけない兄なーな。

 ある晩、夜中に目覚めてトイレに行くのに、福子の部屋の前を通った。そこから漏れ聞こえてきたのは、福子の泣き声だった。
 福子は声を殺して泣いていたのだ。プライドの高い福子は家族の前では強がって、涙を見せたことがなかった。だけど、こうして一人、毎晩密かに泣いていたのだ。
 僕はその場に数分立ち尽くし、それでも声をかけずに自室に戻った。
 そのとき、自分が福子にできることがなんであるのかわからなかったのだ。
 それからの僕は、福子を避けるようになった。もちろん、目の前にいて無視するようなことはしない。

その間に福ちゃんは人と違うことを悩んでいたかもしれないのに、どうして福ちゃんの不機嫌へ家族は向き合ってやらないのか。

 母はどこかすがるような目で僕を見た。そんな母を見ていると、ここに長居したらこの家に取り込まれてしまう気がして、「明日も仕事だから」と言って逃げた。

「自分が頭でっかちなことを知ってる。皆がわたしを避けていることも知ってる。それは見た目の異様さではなくて、この可愛げのない性格のせいだってことも、知ってる。このままではいけないことも知ってる。本を読むより、体を動かした方が良いことも知ってる。
 ……知ってるふりして、実際には世の中のあらゆることを一つも経験していないことも知ってる。全部知ってて、それなのに、何一つうまくいかないの」

福ちゃんの絶望や失望は、自身の異変より家族の対応ではないかと思った。
無理解と無関心は人の心を蝕む。

兄なーなの葛藤をわたしは理解しても、なぜか冷淡に受け取れた。
家族ってやっぱり他人の始まりだと。

兄のなーなは少し優しい。でも産んだ親は。
腫れ物を扱うような冷たさ。

以下、わたしが福ちゃんの副音声で解説すると。

そもそも、周りは『陽奈』や『結衣』など可愛い名前。私の名前は『福子』

 当時の僕は、母が言った〝ふくふく〟の意味がわからなかった。だけどその響きは、とても妹の見た目に合っている気がして、僕はその瞬間から妹を〝ふくちゃん〟と呼んだ。
 両親はそんな僕のために、妹の名を〝福子〟に決めた。

「両親はそんな『兄のため』? はあ?」
ちっとも私へ愛を感じない、親ガチャに外れた。

優しい兄にも距離を置かれて、彼女と同棲だって。
私の誕生日を祝ってくれても、
私は、私は……。
なーなは戻ってきて優しくしてくれるが
私はもういいんだ。決めたんだ。

「なーなはさあ。都合よく、妹が出来て喜んで、可愛がって、挙げ句、捨てたじゃない」
 福子の言葉が突き刺さる。
「わたしは、人形じゃないんだよ」
 福子はやっぱり、感じ取っていたんだ。僕が福子と距離を取り始めて、この二年間はすっかり気持ちの中から福子の存在を消していた事を。


泣いた理由その3、福ちゃんの苦悩への想い。

福ちゃんは容姿からいくつ諦めてきたんだろう。
人並みの青春、周りが普通に得るアオハルをどれだけ見送ってきたんだろう。

 福子はとにかく人の意見を否定したがった。そのくせ、自分を否定されるのは大嫌いだ。
 福子は本を読んで知識を付け、ネット検索をしてはそこで得た知識を溜め込んでいった。
 その頃から福子の頭は止められないくらい大きくなっていて、だんだん熱を帯びるようになった。

福ちゃんの頭囲は賢さや知識量だけではなく、
普通じゃない自分が諦めた数や哀しみの量じゃないかと想像するとわたしは泣いた。

「どうしてこの世に生を受けたのか」
「私は人と違う」
鏡を見なくても、自分のことは自分で分かる。
「どうして私だけ」

世間は個性の豊かさを推奨する。
しかし、福ちゃんは世間が指す個性の枠なのか。
ますます福ちゃんは自分や産んでくれた親を恨んだんじゃないかと思う。
その都度、頭が膨らんで行ったのでは……。

わたしは作品を読み進めて考えれば考えるほど、泣けてきた。

幼少期から才能を認められながらも、
気持ちを理解されずに育ってきた福ちゃんの境遇。
自分の価値を見出せずに絶望していく様子に、
強い共感と悲しみを覚える。

スマホの加工技術で変化した自分では満足できる域にない容姿。
仮に加工で美形になる自分を見ても虚しさが残る。

 福子はいつからか、家にこもるようになった。
 そして福子は本を読まなくなった。
 布団の中で、一日中スマートフォンをいじっている。あることないことを吸収しては頭を大きくしていった。
 友達のいない福子が、スマートフォンに高速でなにかを打ち込んでいる音が聞こえてくると、姿の見えない誰かを傷つける文章を打ち込んでいるのではないかと、やきもきした。
 僕は、いつの間にか福子のことがわからなくなった。

ネットを読む、若い子なら当然SNSを読むだろう。
誰かの生きづらさも目に止まる。
「空気が読めないぐらい、忘れっぽいぐらいなんだ
私は4等身なんだよ!」

性格は外から見えないが、容姿は嫌でも目につく。
容姿は人と異なれば目立つから絶望しやすく、
障害者でもない私。

「なにがルッキズムだよ。お前らは普通じゃないか!」
想像でしかないが、福ちゃんは世界中が敵に見えた日もあったかもしれない。


福ちゃんはなーなと読んだ絵本を聞いていた。
そして絵本のラストを尋ねていた。

わたしの推測では物心がついたときから、絵本に書いてあることを実行すると決めていたんじゃないかと思う。

福ちゃん自身の幸せは、きっと。

わたしのうつ病が酷かった時期や今でも、
「死にたい」と思わない。
叶うなら「消えたい」

その想いを福ちゃんに投影した。
わたしのメンタルが病んでいるからネガティブなのかもしれない。

でも、病んでいるやネガティブでは言い表せないつらい感情はメンヘラではなく、実社会へ不適合さの不安。

生きていることから解放されたい。
安易に「福ちゃん分かるよ」
そんな言葉なんか要らねーよ!

どうしてわたしはこんなに福ちゃんへ共感や感情移入をするのか。

感想文とずれてしまうが、わたしは自己肯定感が低くなるときがある。

ネットに出てくる○○障害などを読み漁ると、
どれにも「幼少期の愛情不足」と書いてある。

わたしには弟がおり、弟へわたしの子ども時代を尋ねても「姉ちゃんは可愛がられていた」
実際、わたしの記憶も恵まれた幼少期だと思う。

しかしわたしは愛情不足の節が性格に出ている。

最近、ちょっとした拍子にわたしの過去が頭へ流出した。吐き気がしそうな、蓋をしていた記憶。

わたしには叔父の妻、叔母がおり、叔母から徹底して嫌な言動をぶつけられていた。
多分、従妹と年齢が1つ違いで目の仇にされたのだと思う。

学校から帰ると、母が不在の日に叔母がいた。
叔母はわたしを見るなり容姿や成績をなじった。

デブやブス、頭が悪いなど散々な言われようで、
祖父母は家にいたが、叔母の暴言は祖父母がリビングから離れた隙だったので助けてくれなかった。

叔母は強烈なほど、キツい言葉を発して人を傷つける人格で、強者には1ミリも出さない顔。
叔母の虐待は、母からみて2番目の弟の妻、
2番目の叔母が仕事を退職するほどのうつ病に落とした。

2番目の叔母がなじられた瞬間をわたしの両親がたまたま目撃して間へ入り、
やっとわたしの事実が信用された。

それまでは、わたしが落ち込んでも不貞腐れても
「気にする方が悪い」という扱い。
部活やお稽古で実際の場面を知らない弟。
仕事で遅い帰宅の父へは、叔母が猫撫で声でなりふり構わず媚びていた。

家族の中でわたしだけが叔母から強い当たりを受け、どんなに両親へ訴えても信じてもらえない。
心に封印するほど深く傷ついた。

そんな過去が福ちゃんへの共感になる。

福ちゃんを助けたい気持ちと、向き合うことへの恐れが交錯する兄なーなの内面は、
わたしの心にも重くのしかかってきた。
福ちゃんへできることはなんだったのだろう。

青豆ノノさんの『バースデーバルーン』を
ぜひ皆さまにご覧になっていただきたい。

言葉では言い表せない込み上げてくる感情の強さ。作品の深い観察力と、登場人物の心情描写が、
心に強く響いた作品だ。

青豆ノノさん
この先もずっと作品を待っております。
拝読させていただいたことやご縁に感謝します。
ありがとうございます!


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