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著…ノジュオド・アリ、デルフィヌ・ミヌイ 訳…鳥取絹子『わたしはノジュオド、10歳で離婚』

 児童婚の壮絶な実態について書かれた本。


 イエメンの地方には「9歳の少女との結婚は、幸せな結びつきの象徴」という諺があるそうです。

 イスラム教の開祖ムハンマドが妻・アーイシャと結婚した時、アーイシャが9歳だったことにも由来するようですが、それ以前からこうした幼い女の子との結婚は珍しいことではなかったそうです。

 昔の日本も、まだ幼い妻を娶ることは珍しくなかったそう。

 …が、日本においてはあくまでもそれは過去の話。

 現代日本の法律ではそんな婚姻は認められませんし、未成年者に猥褻行為を行なった人間は逮捕されます。

 されて欲しい。

 が、外国においては現代もまだ児童婚が残っています。

 さて、この本には、イエメンの村で1998年に生まれた少女ノジュオドの人生が綴られています。

 イスラム教圏では女性の権利がなかなか認められませんが、ノジュオドの生まれた村でも、女性が何かを決めることは許されませんでした。

 ノジュオドは父親の命令により、2008年、まだ10歳にもならない頃に、はるかに年上の男性と無理やり結婚させられました。

 ノジュオドはそれが嫌で嫌で嫌でたまりませんでした。

 一番身近な大人である母に助けて欲しいところ。

 ですが、ノジュオドの母自身も、かつてまるで物のように結婚させられた女性たちのうちの一人であり、男性のやることに女性は黙って耐えるしかないと思い込まされているので、守ってはくれませんでした。

 ノジュオドは学校をやめさせられ、見知らぬ男性と結婚。

 ノジュオドの父は、

心配するな。ノジュオドには最初の生理がきてから一年間は触らないように、やつに約束させた。

(著…ノジュオド・アリ、デルフィヌ・ミヌイ 訳…鳥取絹子『わたしはノジュオド、10歳で離婚』P80から引用)


 なんて言っていたそうですが。

 その約束はすぐに破られました。

 夫はノジュオドに暴力を振るい、レイプし、泣くノジュオドを怒鳴り続けました。

 しかし、義理の家族も、近所の人も、誰一人として助けてはくれませんでした。

夜が近づくことを考えると歯がかちかちします。
わたしはひとり、本当にひとりでした。
誰にも打ち明けられず、話せる人も誰もいません。
(中略)彼といてわかったのはただひとつ、〈残忍〉という言葉の本当の意味でした。

(著…ノジュオド・アリ、デルフィヌ・ミヌイ 訳…鳥取絹子『わたしはノジュオド、10歳で離婚』P125から引用)


 と幼い女の子が心の底からの苦しみを綴っている…、この事実に胸が痛むというより、むしろ、読んでいて腹が立ってきました。

 なぜ周りの誰も助けない!! と。

 他国の伝統文化に外野がとやかく言う権利は無いのですが、痛がって苦しんで泣いて震えている幼い女の子に我慢を強いるのが伝統文化なのでしょうか?

 ノジュオドが恥ずかしさを堪えながら、夫から受けた仕打ちを全部両親に話すと、

 母は、

人生はこういうものなのよ、ノジュオド。女はみんなそこを通過しなくちゃいけないの。私たちもみんな同じことをやってきたのよ……。

(著…ノジュオド・アリ、デルフィヌ・ミヌイ 訳…鳥取絹子『わたしはノジュオド、10歳で離婚』P128から引用)


 と助けを求めるノジュオドを拒絶。

 父は、

おまえが離婚なんかしたら、わしは兄弟や従兄弟に殺される! 名誉、名誉がいちばんなのだ。名誉だ! わかったか?

(著…ノジュオド・アリ、デルフィヌ・ミヌイ 訳…鳥取絹子『わたしはノジュオド、10歳で離婚』P129から引用)



 とノジュオドを怒鳴りました。

 自分の娘よりも名誉の方が一番大事なのですね…。

 このくだりを読んでいて、読んでいるわたしもノジュオドと共に泣き崩れたい気持ちで一杯になりました。

 けれど。

 ノジュオドは諦めませんでした。

 親戚の中で唯一、ノジュオドの若過ぎる結婚に反対してくれた女性(父の二番目の妻ダヴォラ)に相談しに行くと、「裁判所に行くしかないわ!」と助言をしてくれて、わずかではありますが役立てて欲しいとお金を持たせてくれました。

 ノジュオドは勇気を振り絞って裁判所へ辿り着き、「離婚したいのです!」と叫びました。

 離婚にあたっての裁判では、父と夫が言い訳をし続け、醜く言い合いましたが、無事に離婚が成立!

 …このくだりを読んでいてホッとしました。

 けれど、ノジュオドの見る悪夢はまだ覚めたわけではありませんでした。

 ノジュオドや、ノジュオドを支援した人は、昔ながらの価値観を持つ人々からの中傷に晒されたそうです。

 それに、ノジュオドの勇気ある行動が、まだ社会を大きく変えられたわけでもありません。

 この本によると、ノジュオドの姉・ムナーは幼い頃に見知らぬ男性からレイプされたけれど、周りの人たちによってそのレイプ犯と無理やり結婚させられた、とノジュオドに告白したそうです。

 この手の海外ニュースは、残念ながら今でも時々目にしますよね。

 「一族にとって不名誉だから」といった理由があるそうですが、根深い女性蔑視にゾッとします。

 きっと向こうの方々からすれば、むしろ「日本人が眉を顰める方がおかしい」と考えるのでしょうけれど…。
 
 また、この本に、

最近のことですが、サウジの男性と結婚した9歳の女の子が結婚式の3日後に死んでしまいました。両親は相手を非難して叫ぶかと思いきや、娘が質の悪い商品だったかのようにあわてて夫のところに謝りに行き、代わりに7歳の妹を提供しました。

(著…ノジュオド・アリ、デルフィヌ・ミヌイ 訳…鳥取絹子『わたしはノジュオド、10歳で離婚』P233から引用)



 と書かれていることにもゾッとしました。

 女性にとって生きづらい社会はまだまだ存在していますが、かつて幼いノジュオドが勇気を振り絞って踏み出した小さな一歩は、大きな一歩であったはず。

 テレビでノジュオドの離婚のニュースを知り、夫から逃亡する勇気を得た少女たちもいますから、ノジュオドのやったことは立派だったと思います。

 …さて、ノジュオドは今どうしているのでしょうか?

 かつてわたしが読んだハフィントン・ポスト(現・ハフポスト)の2016年の記事によると、ノジュオドは2014年(16歳くらいの頃ですね)に再婚し、2016年の時点で2人の女の子の母親になったそうですが、2024年現在の状況は分かりません。

 どうか元気でいて欲しいです。

 そしてその再婚が、またしても強制によるものではありませんように…!



 〈こういう方におすすめ〉
 児童婚の問題について学びたい方。

 〈読書所要時間の目安〉
 その内容の過酷さゆえ、5時間は必要です。

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