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著…鳴海章『はつこひ写楽』

 タイムスリップものなのですが、わたしはこの本をSF小説や恋愛としては読みませんでした。

 これは、子を想う親の物語です。



 ※注意
 以下の文は、結末に関するネタバレを含みます。



 謎に包まれた写楽の正体。

 それは、重病の我が子の治療費を稼ぐために絵を描き続けた男である…。

 という説を展開する小説です。

 …どれだけ周りの人が代わる代わる乳をやっても、どれだけ薬を飲ませても、ただ衰弱していく赤ちゃん。

 その描写は、子どもを授かったことの無いわたしさえ涙が出るほどでした。

 この小説の主人公・初音は、いわゆるタイムスリップをして写楽(斉藤)と出逢います。

 初音が現代に帰った後で、写楽の赤ちゃんについて考えた一文が、とても切ないです。

さっき自分が診察を受けた医務室の設備があれば、助かるかも知れない。

(著…鳴海章『はつこひ写楽』P265から引用)


 …確かにそうかもしれません。

 現代の医学は、写楽が生きていた時代と比べたら非常に進んでいるでしょう。

 けれど完璧というわけではありません。

 残念ながら、まだ全ての子どもを病気や怪我から救えるわけではありません…。

 だから、初音が考えたように、もしも現代医学による治療を施したとしても、写楽の子どもが元気になるかは…分かりません。

 いつの時代も、子どもたちの、そして親たちの涙が流れています。

 きっと、まさに今この瞬間も、どこかで…。

 そう思いながらこの小説を読んだら、泣けてきました。

 どうか、いつかはもっと一人でも多くの命が救われるようになりますように。



 〈こういう方におすすめ〉
 親の愛を描いた小説を読みたい方。

 〈読書所要時間の目安〉
 1時間〜1時間半くらい。

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