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著…森博嗣『スカイ・クロラ』

 戦闘を命じられる。

 お互い何の恨みもないばかりか顔も名前も知らない人たちと、来る日も来る日も殺し合わされる。

 相手の戦闘機を撃ち落としても達成感などない。

 逆に、自分が撃ち落とされても感情が昂ることはない。

 今日自分が死んだ空で、明日もまた誰かが死んでいくのだから。

 殺し殺されるための生贄は常に補充されていく。

 そして、見せ物としての戦闘は、これから先も続く。

 そんな虚しさを描いた小説。


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 カンナミはこう考えます。

堕ちるなら、雪の上が良い、なんて仲間たちは口を揃えて言う。どうしてなのか、雪を知らない僕には理由がわからない。

(著…森博嗣『スカイ・クロラ』P35から引用)



 それはきっと、仲間たちが雪のことを、まるで雲のように感じるからなのではないでしょうか。

 みんな、天使ではないから、どんなに空を飛んでもいつかは地上へ降りなければなりません。

 空で戦って撃たれた後、体は空に留まれず、必ず地上に堕ちていきます。

 死んでしまえば体がどうなるかなんてわかりはしないのだけれど、それでもみんな「空にいたい」と願うのかもしれません。

 だからみんな「堕ちるなら、雪の上が良い」と言うのかも…。

 きっと、カンナミたちと戦わされている人たちも同じことを感じているでしょう。

 そして、それを知っているから草薙は言うのでしょう、


「いつまでも、ずっと、仲間を殺し続けるつもり?」

(著…森博嗣『スカイ・クロラ』P238から引用)

 と。



 これって、この『スカイ・クロラ』という小説の世界に限ったことではありませんよね。

 現実の世界においても、戦場にいる人たち同士には何の私怨もありません。

 きっと面識すら無い。

 誰もが傷つけば痛いし苦しいし悲しいというのに、同じ人間同士で殺し合っています。

 何故?

 いっそ、戦争を引き起こした張本人同士で殺し合えば良いのに。

 命じるだけの人は、いつだって安全な所にいるものです。

 …戦争なんて、本当に虚しいものですね。


 いつだって戦争は醜いけれど、空も、雲も、雪も、いつだって綺麗。



 〈こういう方におすすめ〉
 戦いの虚しさを描いた小説をお探しの方。

 〈読書所要時間の目安〉
 3時間くらい。

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