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著…オスカー・ワイルド 訳…平野啓一郎『サロメ』

 戯曲『サロメ』とその解説を収録した本。

 わたしはサロメと聞くと、「少女でありながらも魔性」「男性の生首を欲しがる毒婦」といったイメージが強かったのですが、この翻訳版を読んでそのイメージは変わりました。

 これは悲劇の物語。

 サロメが純粋だからこそ、同じく純粋なヨカナーンに一方的な恋をしてしまったのだ、出会ってはいけない二人が出会ってしまったのだ、と気づかされました。



※注意
 以下のレビューにはネタバレを含みます!


 サロメはヨカナーン以外の男性が自分に向けてくる視線にうんざりしていました。

 義理の父でもあり実父の弟でもあるヘロデ王からのしつこい視線です。

 一晩中だって見つめてくるのですから、本当に不気味。

 好きでもない相手から熱烈に見つめられ続けるなんて、誰だって気持ち悪いものですよね。

 相手が王というのも始末が悪い。

 一方、ヨカナーンが見つめているのは神だけ。

 だからサロメは言います、「他の男たちなんて、みんな吐き気がする。でもお前は、美しかった」と。

 けれどヨカナーンのその純粋な心はあくまでも神にのみ注がれるもの。

 ヨカナーンは「私はただ、主なる神の声を聴くのみ」と言い、サロメを拒絶。

 ヨカナーンの視線も、心も、口唇も、神のもの。

 決してサロメのものにはならない…。

 そんな折に、ヘロデ王がサロメに「わしのために踊れば、お前の欲しているものは何でもやる」と言い出してしまったのですから、悲劇的な結末へのお膳立てはととのってしまいました。

 サロメは首だけになったヨカナーンに口づけます。

 サロメの一方的な恋心がほんの少しだけ報われたかのようにも見える瞬間です。

 けれど、ヨカナーンがサロメに応える日は決して来ない…。

 好きな人の首を切らせてその遺体に口づけするなんて、狂気以外のなにものでもない光景。

 けれど、「どうしてわたしのこと、見てくれないの、ヨカナーン?」というサロメのセリフは、ゾッとするほど恐ろしいけれど切ない。

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