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著…桂望実『僕とおじさんの朝ごはん』
年齢の離れた友情を描いた小説。
※注意
以下の文は、結末までは明かしませんが、ネタバレを含みます。
この小説の主人公は、水島健一という男性。
健一はケータリングの仕事をしていますが、はっきり言ってやる気なし。
「自分が出した料理によって誰かに喜んでもらいたい」という熱意が無いのです。
だから、出来合いのものを買って、それを使うだけで済ますこともしばしば。
「スーパーで買ったものでも、組み合わせや飾り方を工夫して、見た目が良ければそれでお客は満足するでしょ」というスタンスで仕事をしていたのです。
そんな健一が、一人の少年と出会ったことで変わります。
少年の名前は大谷英樹。
英樹は生まれた時からずっと病気。
度重なる検査と手術とを受け続け、ずっと病院で過ごしてきた13歳の少年です。
健一と出会うまで、英樹にとって食事というのは、単に栄養をとるためだけのものでした。
何を食べても、「美味しい!」という喜びや驚きはなくて、母親を困らせるくらいいつも少食。
しかし。
たまたま英樹が健一の作ったサンドイッチを食べた時。
変化が起きました!
健一の作ったサンドイッチ。
…と言っても、単に健一はパンに餡と生クリームを挟んだだけ。
パンも、餡も、生クリームも、買った物だったのですが。
それでも英樹は勢い良くそのサンドイッチを食べました。
英樹に「これ旨いね」と言ってもらって、健一の心にも変化が起きました。
やがて、英樹は健一が自身のために手作りしたお弁当をお裾分けしてもらうのを楽しみにするようになりました。
それを健一も楽しみにするようになり、お弁当に入れる具をあれこれ工夫するようになりました。
手を抜かず。
丁寧に。
英樹が美味しそうに食べるのを見る英樹の母親もまた喜びました。
…というストーリーの小説です。
と、ここまでだと、めでたしめでたしで終わる気がするのですが…。
そう上手くはいきません。
英樹は生まれた時からずっと病気に苦しんできた少年です。
検査も、手術も、たくさん受けてきました。
それでも病気は治りません。
いつ治療法が出来るかという目処も立ちません。
苦しみはいつまでも続く。
だから英樹は言いました。
もう手術は受けない。
もう頑張らない。
もう死なせて欲しいんだ。
と。
…この小説の結末がどうなるのか、興味を持ってくださった方は是非読んで確かめてください。
わたしは結末まで読んで良かったです。
尊厳死というものについての考え方が変わりそうです。
「切ない」とか「悲しい」とかよりも、代わってあげたくても誰も代わってやれないという辛さ、そして、人は遅かれ早かれ100パーセント死ぬということ、そういった様々なことを思いました。
そんな時思うのは、昨日父さんと母さんに有り難うと言っただろうかということだった。言わなかったと気付くと、たちまち胸がきゅうっと痛くなり、自分の大失敗を後悔した。
という文が特に心に残りました。
〈こういう方におすすめ〉
切ない友情を描いた小説を読みたい方。
〈読書所要時間の目安〉
1時間半〜2時間くらい。
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