著…諸田玲子『今ひとたびの、和泉式部』
その溢れる魅力ゆえに、本人の望む望まぬに関係無く男性から惚れ込まれてしまい、恋無しには生きられなかった和泉式部。
彼女は、飢饉や流行病や貧困などで人々が短命だった時代に、恋を歌にして遺し続けました。
この小説は、高齢となった赤染衛門が、実の娘のように可愛がってきた和泉式部が亡くなったことを機に、「蛍を愛でながら式部どのを偲びましょう」と、ゆかりのある人々を集めるところから始まります。
亡き式部の気配を感じながら、彼女の詠んだ歌に、蛍の美しい光と自分の気持ちとを重ねる…。
素敵な集いですね。
「ものおもへば 沢のほたるも わが身より あくがれいづる たまかとぞ見る」
来年も蛍の季節がきたら、わたしもこの美しい歌を思い出したいです。
また、
「あらざらむ この世のほかの 思ひ出に 今ひとたびの 逢うこともがな」
というあまりにも有名な、つかの間の逢瀬を詠んだこの歌のことも思い浮かべたいです。
そして、恋多き式部が彼岸へ旅立つ時に想ったであろう男性の名は一体誰だったのか、想像を巡らせたいです。
恋と同じくつかの間の命を精一杯生きる蛍たちのことも、そっと優しく愛でながら…。
この小説で読む式部の人生は悲しくもありますが、
「夢にだに見で明かしつる暁の 恋こそ恋のかぎりなりけれ」
という歌を詠めた式部のことが、わたしはなんだか羨ましく思えてなりません。
この本によると、この歌の現代語訳はこうなります。
やっぱり羨ましいです。
それほどまでに深く誰かを好きになれるなんて…。
〈こういう方におすすめ〉
平安時代の歌人としての、というよりも一人の女性としての和泉式部の生涯に興味がある方。
〈読書所要時間の目安〉
2時間くらい。
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