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著…坂口安吾 絵…夜汽車『夜長姫と耳男』
容姿に強いコンプレックスがあり、言葉遣いも悪くて、他人の心を傷つけ続ける「耳男」。
これは、そんなトゲトゲしい彼のどうにもならぬ苦しい恋心を描いた小説。
※注意
以下の文は、結末までは明かしませんが、ネタバレを含みます。
耳男はある日、「夜長姫」の父親から、こんな依頼を受けます。
他の匠たちと競い合って勝った者に、姫の今生後生を守る御仏の姿を刻んで欲しい、と。
そして、姫の気に入る御仏を造った者には、褒美として美しい女性が与えられることになりました。
けれども、耳男はその女性を怒らせてしまいましたし、それに…、耳男が自然と見つめてしまうのは姫のことばかり。
心に焼き付いて離れないのは、姫の姿。
姫の笑顔。
姫の言葉…。
耳男は、そんな自分に戸惑いました。
腹が立ちました。
耳男はきっと姫が気に入らないであろう、おぞましい化け物の像を造りました。
それがせめてもの反抗でした。
しかし、思いがけないことが起こりました。
姫が耳男の作品をいたく気に入って笑ったのです。
姫は見た目こそ絶世の美の持ち主ですが、その心は無慈悲で残酷。
気まぐれに人をいたぶり、気まぐれに殺します。
頭ではそう分かっていながらも、知らず知らずのうちにすっかり姫に魅入られてしまった耳男は、
今生の思い出に、この笑顔を刻み残して殺されたいとオレは考えた。
「今生のお願いでございます。お姫サマのお顔お姿を刻ませて下さいませ。それを刻み残せば、あとはいつ死のうとも悔いはございません」
と、姫の父親に向かって必死に叫ぶのでした。
…この願いが果たして聞き届けられるのかどうか気になる方は、実際に読んで確かめてみてください。
非常に暴力的でグロテスクな作品なのですが、姫のどんなに常軌を逸した要求にも抗えない耳男の辿る道が気になり、つい一気に読んでしまいました…。
単に「惚れた弱み」と呼ぶには、あまりに哀れ。
なんて歪な二人の顛末…。
〈こういう方におすすめ〉
狂気の恋物語を読みたい方。
〈読書所要時間の目安〉
3時間くらい。
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