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著…村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』

 赤松(通称アカ)、青海(通称アオ)、白根(通称シロ)、黒埜(通称クロ)、そして多崎つくる。

 彼は、この仲良し五人組の中で唯一、名前の中に色が入っていません。

 そして、個性という名の色彩が希薄であることにも、引け目を感じていました。

 彼はある日、何の理由も教えて貰えぬまま、四人から拒絶されてしまいます。

 彼は、四人と決別せざるを得なくなった日から16年以上の時を経た今、真実を知るためにかつての4人のうちアオ、アカ、クロを訪ね、思いもしなかった事実を知ることになります…。

 …という小説。


 ※注意
 以下の文は、結末に関するネタバレを含みます。


 物語の序盤で、

人間は一人ひとり自分の色というものを持っていて、そいつが身体の輪郭に沿ってほんのり光って浮かんでいるんだよ。

(著…村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』P87から引用)


 という文があり、わたしは「えっ。それなのに、多崎つくるには色彩が無いの?」とドキリとして、物語に引き込まれていきまいました。

 しかし、誰しもそれぞれの色彩があるのだということや、アオにとってもアカにとってもクロにとっても実はつくるは好ましい人間であった、ということが次第に明かされていき、わたしはホッとしました。

 色彩が無いなら無いで、それもまた一つの色。

 そしてその色は、他の色彩たちが持たない良さを持っている…ということなのでしょう。

 だとしたら、過去というものにも同じことが言えるのかもしれません。

 たとえ既に色褪せてしまっているかのように思えたとしても、本当はそうじゃない。

 色褪せることなんて無い。

 いつまでもいつまでも決して消えることのない色を放っているのかもしれません。

 この小説を読んでいたら、わたしも過去への巡礼の旅に出掛けてみたくなりました。

 多崎つくるはきっとこれからも駅舎を作る仕事を続けるのでしょう。

 そして、駅を行き交う人々を見守るのでしょう。

 わたしも、自分自身や他の人の人生の、様々なポイントの一つ一つを見守り、そして大切にする人間になりたいです。




 〈こういう方におすすめ〉
 「自分には個性がない」と悩んでいる方。

 〈読書所要時間の目安〉
 2時間半くらい。

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