著…貴志祐介『青の炎』
「大切な家族を守りたい」
それは多くの人が抱く願いですよね?
けれど、この小説の主人公はその願いを叶えるため、罪を犯します。
そして…。
※注意
以下の文は、結末までは明かしませんが、ネタバレを含みます。
この小説の主人公は、男子高校生・秀一。
彼は、大切な家族を守ろうとして、人を殺してしまいました。
自分が犯人だと露見すれば、ネットなどで自分だけでなく家族まで晒し者にされる…。
彼にはそれが分かっていたので、計画を練り、完全犯罪を目論みます。
しかし、完全犯罪など存在しません。
驕った彼の犯行はどんどんボロが出て、すぐに警察は彼を疑い始めます。
明日には警察へ行って全てを白状しなければならない…という瀬戸際になった時。
彼は悪夢を見ました。
マスコミが自宅まで押し寄せ、家族へマイクを向け、容赦なくフラッシュを焚き、ネット上では自宅の住所や電話番号や家族構成などが暴露される…という悪夢を。
夢から覚めた後、彼はある重大な決断をしました。
そして…。
…。
続きが気になる方は、是非読んで確かめてください。
ずっと前に書かれた作品なのに、今読んでも、肩をわし掴みにされて大きく揺さぶられるような眩暈を覚えます。
…正直言って、読んでいて気持ちの良い小説ではありません。
誰も幸せにならないから。
彼の友人が語った、
という話が、この小説のタイトルと繋がっています。
その瞋りの青い炎に自分や周りの人が焼かれることが、わたしにもこの先全くないと言えるかどうか…。
この小説を読んでいると、そんな想像もして、じわじわと怖くなってきました。
加害者になるのも、被害者になるのも、他人事ではないのだ…と。
…この小説の主人公は、家族を守るためだったとはいえ、人殺しです。
本来なら、同情の余地はありません。
彼を追い込んだのは、まさしく彼。
けれど…、彼が殺人を犯すに至った不幸な境遇や、周りの大人たちが彼を孤立させた状況が、なんだか現実の犯罪を目の当たりにしているようで、非常に考えさせられます。
少なくとも彼には、殺人以外の選択肢が無かった。
周りの大人たちは誰も救いの手を差し伸べなかった。
彼だけが悪いのか?
周りの人々は、彼やその家族のためにもっと何か行動出来なかったのか?
どうすれば、彼は人を殺すことなく、家族と一緒に暮らせたのだろうか?
…と。
〈こういう方におすすめ〉
犯罪に手を染める人間心理と社会問題を描いた小説を読みたい方。
〈読書所要時間の目安〉
3時間くらい。