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夏目漱石『草枕』 (1)索引づくり編 – 索引で読む文学作品

『草枕』を読みながら、こう考えた。
理屈っぽくって角が立つ。辞書を引かないと流される。調べてばかりだと窮屈だ。とかくにこの小説は読みにくい。

読みやすくするために、「索引」をつくることにしました。

「知らない」言葉や「よくわからない」語句には、どんな本を読んでいても出会うものですし、「新しい」表現に出会うことは文学作品を読む楽しみの一つでもあります。その作家や作品が持っている特徴的な文体も、人によって好みや相性があるとしても、そのオリジナリティは尊重されるべきものでしょう。
注釈を確認する煩わしさや、辞書で調べる億劫さは、「索引」があるからといって解消されるものでもありません。

『草枕』が読みにくいと感じるのは、本文にも注釈にも、和漢洋のさまざまな人名や作品名が頻出するからなのではないのか。そう気づいたとき、補うべきは「語彙」ではなく、まずは「知識」のほうだと思い至りました。それならば、「索引」があることは「読みやすくするため」の大きな手がかりとなるはずです。

索引づくり

早速、「索引づくり」に取り掛かります。
どういった項目を、どういった方法でピックアップするかは、索引づくりのポイントですが、まずはベーシックな方法で次のように作成してみました。

・項目は、人名と作品名
 本文だけでなく、注釈に記載されているものも含みます。
・機械的に抽出し、五十音順に並べます
 ()内は本文での表記で、[]内は章番号です。

太字は本文中に記載(および作品の場合は引用)されている場合で、他は注釈などに登場する項目です。
人名にはもちろん小説の登場人物は含みません。俳句など作品名がない場合もありますが、今回は除きました。
また、この小説には夏目漱石自身の詩なども登場しますが、そのような場合もここでは除きました。

それでは、夏目漱石『草枕』の索引をご覧ください。

索引 – 人名

  あ行
青木木米(杢兵衛) [八]
池大雅 [六]
伊藤若冲 [三]
ヘンリック・イプセン(イブセン) [十三]
岩佐又兵衛 [十一]
隠元隆琦 [三]
レオナルド・ダ・ヴィンチ [一]
ウェルギリウス(ヴァージル) [六]
雲谷等顔 [六]
運慶 [三]
王維 [一], [四]
荻生徂徠 [八]
尾崎紅葉 [一]

  か行
葛飾北斎 [三]

観世元雅 [一]
キリスト(基督) [七], [十二]
フレデリック・グドール(グーダル) [十二]
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ [一]
孔子 [四]
洪自誠 [三]
高泉性潡 [三], [八]

  さ行
ウィリアム・シェイクスピア [一], [十]
パーシー・ビッシュ・シェリー(シェレー) [一]
趙州従諗 [十一]
アルジャーノン・チャールズ・スウィンバーン [七]
ローレンス・スターン [十一]
世阿弥 [二]
雪舟 [六]
千利休 [四]
即非如一 [三]
蘇軾 [一], [六]

  た行
ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー [三]
, [四]
大慧宗杲* [三]
高山樗牛 [十二]
晁補之 [十一]
陶淵明 [一]
徳冨蘆花 [一]
杜甫 [一], [六]

  な行
長沢芦雪(蘆雪) [二]


  は行
白隠慧鶴 [四]

白居易(白楽天) [六], [七]
広瀬惟然 [二]
藤村操 [十二]
文同(文与可) [六]
細井広沢 [八]
ホメーロス(ホーマー) [六]

  ま行
正岡子規 [二]
松尾芭蕉 [一]
円山応挙 [三]
ミケランジェロ・ブオナローティ(ミケルアンゼロ) [十二]
ジョン・エヴァレット・ミレー [二], [七]
向井去来 [一]
宝井其角 [四]
ディミトリー・メレシュコフスキー [一]
ジョージ・メレディス [四], [九]
孟浩然 [一]
孟子 [四]
木庵性瑫 [三]

  や行
与謝蕪村
 [四], [六]

  ら行
頼杏坪 [八]

頼山陽 [八]
頼春水 [八]
ラファエロ・サンティ(ラファエル) [十二]
李白 [六]
ゴットホルト・エフライム・レッシング [六]
呂尚(太公望) [十三]
サルヴァトル・ローザ(ロザ) [三]

  わ行
ウィリアム・ワーズワース(ウォーヅウォース) [六]

オスカー・ワイルド [十二]

*岩波文庫、新潮文庫の注には「癡兀(ちこつ)大慧」とありますが、癡兀大慧(1229年 - 1312年)は鎌倉時代の臨済宗の僧。本文中の挿話や注の説明などから、「大慧宗杲」が正しいと思われます。

索引 – 作品名

  あ行
戯曲『アテネのタイモン』 [十]
絵画『雨、蒸気、速度』 [三]
歌物語『伊勢物語』 [四]
詩『飲酒二十首 并序』 [一]
詩『飲中八仙歌』 [一]
思想書『淮南子』 [七]
紀行・俳諧『奥の細道』 [一]
絵画『オフィーリア』(オフェリヤ) [二][三], [七]
仮名法話『遠羅天釜』(遠良天釜) [四]

  か行
歴史小説『神々の復活 レオナルド・ダ・ヴィンチ』 [一]
長唄『勧進帳』 [七]
歴史書『後漢書』 [三]
書簡『獄中記』 [十二]
古典散文選集『古文辞類纂』 [十一]
小説『金色夜叉』 [一]

  さ行
随筆集『菜根譚』 [三]

歴史書『史記』 [五]
能『七騎落』 [一]
小説『シャグパットの毛剃』 [四]
詩『春曉』 [一]
注釈書『春秋左氏伝』 [十]
詩『春夜』 [六]
歴史書『書経』 [七]
詩『水仙』(The Daffodils) [六]
能『隅田川』(墨田川) [一]
詩集『楚辞』 [六], [十]

  た行
経典「大蔵経」 [三]

能『高砂』 [二]
詩『竹里館』 [一]
詩『長恨歌』 [七]
絵画『鶴図屏風』 [三]
伝奇小説『桃花源記』 [一]
東大寺南大門金剛力士像(運慶の仁王) [三]
小説『トリストラム・シャンディ(シャンデー)』 [十一]

  は行
能『羽衣』 [二]
戯曲『ハムレット』 [一]
小説『ビーチャムの生涯』 [九]
日本美術論『美的生活を論ず』 [十二]
詩『ひばりに寄せて』(To a Skylark) [一]
戯曲『ファウスト』 [一]
公案集『碧巌録』 [六], [十一]
絵手本『北斎漫画』(北斎の漫画) [三]
経典『法華経』譬喩品 [六]
小説『不如帰』 [一]

  ま行
和歌集『万葉集』 [二]

公案集『無門関』 [十一]
四書『孟子』「離婁章句上」 [四]

  ら行
芸術論『ラオコオン 絵画と詩歌の限界について』 [六], [十]

詩『鹿柴』 [四]
四書『論語』為政第二 [四]

ひとまず

今回つくってみた夏目漱石『草枕』の索引は、ひとまず「β版」です。
誤字や脱字、項目の抜けなどありましたら、ご指摘いただけると幸いです。

なお、底本としたのは手元にあった次の文庫本です。
底本:「草枕」岩波文庫
   1929年7月5日 第1刷発行
   1990年4月16日 第76刷改訂版発行
   2003年8月25日 第98刷発行

内容を検証・補うために参考にした文庫本についても記載しておきます。
参考:「草枕」新潮文庫
   昭和二十五年一月二十五日 発行
   平成十七年九月二十日 百二十九刷改版
   平成二十六年六月十日 百四十八刷
   「草枕・夢十夜」角川文庫
   1992年12月20日 第1刷
   2011年6月6日 第17刷

次回は

最後までご覧いただき、ありがとうございます。
いかがだったでしょうか? つくってみて改めて見てみると、和漢洋の範囲だけではなく、紀元前から『草枕』が書かれた当時(1906年・明治39年)までと、期間も広いことがわかりますね。
そしてジャンルもさまざまです。

第1回の今回つくってみた索引を改めて眺めながら、次回(第2回)はもう少し、夏目漱石『草枕』を「読みやすくするため」の手がかりをさぐってみようと思います。

/三郎左

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