宇宙
十代後半まで、活字と距離を置いてきた身からすると、本好きがそういう人間にどんな作家をお勧めしようとするか、が分かってくる。
実経験から話すなら、そのトップは星新一。父親から親戚のおじさん、近所の図書館の司書さん、体育の先生に至るまで、みな揃って「星新一、いいよ」と勧めてきた。
勧められる側から勧める側になると、なぜ星新一がお勧めされやすいのか、が何となく摑めてくる。一篇一篇の短さ、アイデアの秀逸さ、読者が適度に距離をとれる匿名の登場人物たち……あげだしたら切りがない。
読書生活を続ける上で、このトップに君臨する星新一の代わりになる作家(および作品)を見つけ出そう、というのが一つの目標にもなっている。今回は、その成果の一部を紹介したい。
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引用したのは、大濱普美子『三行怪々』に収録された作品の一つである。一行24文字×3に収まる短さだ。
あえて短い作品を選んだわけではない。本書に収録されている作品は、すべてこのサイズに収まっている。
スカイプは、突如通信状態が悪くなり、相手側に声が届かなくなったり、それこそ映像が止まってしまったりすることが、結構ある。そのときに相手方を訪ねたら、実際にフリーズして固まっていた……場面が容易にイメージできて、とても癖になる作品だ。
もう一つだけ、作品を紹介したい。
読解力がないからか、私は本作を一読で理解することができなかった。「んん?」となり、何度も何度も読み返してしまう。
鏡に向かったのは、眼鏡をかけた自身の姿を確認するためだろうが、そこに「怖さ」を感じているのはなぜだろう。鏡を通して、背後にいる故人を見てしまうかもしれないからだろうか。
そもそもこの眼鏡は、故人"も"見えるようになるのか、それとも故人"だけ"が見えるようになるのか。どちらなのかで、大分状況が変わってくる。
もし後者であれば、鏡に映るもの次第で、眼鏡をかけた当人が故人である可能性も出てくる。まあ、故人に眼鏡が買えるのか、といった細かい疑問も生じてはくるが……。
こんな風に色々と想像を膨らませることができるのも、この作品が三行に収まっているからだ。実際に、眼鏡をかけて何が映ったかを書いてしまっていたら、ああだこうだと考えてみるひとときは生まれなかっただろう。
三行だからこそ、詰め込める宇宙がある。そのことを痛感した一冊だった。
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