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在野研究一歩前(46)「読書論の系譜(第二十八回):内村鑑三編『偉人と讀書 讀書に關する古今偉人の格言』(山縣圖書舘、1900)⑨」

 今回も前回に引き続き、内村鑑三編『偉人と讀書 讀書に關する古今偉人の格言』内で紹介されている、「偉人」の「読書」論を見ていきたいと思う。

チエスター・フィールド公(チェスター・フィールド伯)
「懦弱無智なる讀者を樂しません爲めに、懶惰なるにあらざれば貧乏なる著者に依りて公にせられたる區々たる無益の書の上に汝の時間を少しなりとも費す勿れ、斯る種類の書は毎日吾人の周圍に蜂の群がるが如くに群集す、此點に於ては智識は恰も權力の如し、最も多く有する者は更に多く得んとの願望を起す、智識は之を有するに依りて吾人を飽かしめず、反て吾人の希慾を增す、斯の如きは他の快樂に於て稀に見る所なり」(P41)

チェスター・フィールド伯は、イギリスの政治家。父の後を継いで上院議員となり、駐オランダ大使、アイルランド総督を歴任。ハーグ滞在中に生まれた庶子にあてて30年間書き続けた約400通の『息子への手紙』で知られる。
 チェスター・フィールド伯は語る。
 無智な読者を楽しませるためだけに著された書籍に対して、あなたは少しであっても時間を費やすべきではない。このような無益な書は、毎日私たちの周囲で蜂のように群がっている。無益な書に邪魔されることなく、種々の本に触れていくためには、ある程度の智識は必要不可欠であり、もし智識を有すれば、飽くことのない熱情をもって「読書」を続けることができる。
 ―「現代における「無益の書」とは……?」と、つい読みながら考え込んでしまった。

サミュエル・ジョンソン
「青年は毎日五時間づヽ書を讀むべし、而して斯くして多量の智識を得べし
 全體の原理は書籍より得ざるべからず。談話に依りて吾人は組織立ちたる智識を得る能はず
 手に執りて容易く爐邊に持運ばれ得る書は、是れ凡てに比べて最も良き書なり
 智識に二つの種類あり、一は吾人自身に一問題を知るにあり、然らざれば之に關する説明の何處にある乎を知るにあり。若し吾人或る問題に就きて研究を遂げんと欲せば、吾人の先づ第一に爲すべき事を何れの書が、之に就きて論説し居るやを知るにあり」(P43)

サミュエル・ジョンソンは、イングランドの文学者・文献学者。『シェイクスピア全集』の校訂・注釈からシェイクスピアの研究者として知られ、また、ボズウェル『サミュエル・ジョンソン伝』などの伝記でも描かれている通り、様々な名句を残したことで知られる。例としては、「腐敗した社会には、多くの法律がある。」「政府は我々を幸せにすることはできないが、惨めな状態にすることはできる。」など。著作としては、『英語辞典』『詩人列伝』などがある。
 サミュエル・ジョンソンは述べる。
 青年は、毎日五時間読書をするべきである。そのようにして、智識を身につけよ。
 物事における全体の原理は、読書を通じて把握しなければならない。談話だけでは、私たちは論理だった智識を身につけることはできない。
 すべての本の中で最も優れているのは、持ち運びがしやすい本である。
 智識には二つある。すなわち、ある問題が「存在する」ことを知ることと、その問題の内実を「理解する」ことである。もし私たちが、ある問題について研究しようと試みるならば、まずはじめに「ある問題」についての説明が示された本を探すべきである。
 ―数々の名言で知られるサミュエル・ジョンソンなだけあって、「読書」論についても、頷ける内容のものが多い。

デビッド・ヒユーム(デイヴィッド・ヒューム)
「余は成功を以て敎育の普通の順路を通過し、夙に文學に對する情熱に襲はれたり、而して此情熱たるや余の生涯を支配するものとなりて、余に快樂を供する大なる泉源となれり」(P43~45)

デイヴィッド・ヒュームは、イギリス経験論哲学の完成者と評されるイギリス・スコットランド・エディンバラ出身の哲学者。ヒュームの哲学・思想は、トーマス・ジェファーソン、ベンジャミン・フランクリンなどに多大なる影響を与えた。主著に『人間本性論』がある。
 デイヴィッド・ヒュームは述懐する。
 私は順調に教育の過程を進んできた中で、あるとき「文学」に対する熱情に襲われて、それは生涯全体を支配するものになり、私を常に感動・興奮させる大いなる源となっている。

 以上で、「在野研究一歩前(46)「読書論の系譜(第二十八回):内村鑑三編『偉人と讀書 讀書に關する古今偉人の格言』(山縣圖書舘、1900)⑨」」を終ります。お読み頂きありがとうございました。

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