飯田線でゆく、紅葉をめぐる旅(豊橋〜天竜峡)
11月13日、紅葉の名勝である天龍峡を目指し、豊橋駅を8時11分に出発するJR飯田線に乗り込みました。天竜峡駅の到着予定時刻は12時10分。約4時間にわたる長旅の始まりです。
豊橋駅を出て1時間余り、長篠城駅を過ぎると右手の車窓に、澄んだ色をした豊川が並走を始めました。豊川は愛知県の東部を流れ、三河湾へと注ぐ一級河川です。長篠城は、織田信長・徳川家康の連合軍と武田勝頼が戦ったことで有名な合戦の地。ぐっと旅情を増した車窓の風景を眺めながら、しばし歴史に想いを馳せます。
豊橋駅を出て2時間余り、ようやく中間地点である中部天竜駅に到着しました。停車時間は20分。電車を降りてシャッターを切っていると、山がすこし色づき始めていることに気づきました。
中部天竜から先は、左手の車窓に美しいエメラルドグリーンの水窪川が望めます。水窪川は浜松を抜けて太平洋へと注ぐ天竜川水系の河川です。
水窪駅を過ぎると、車窓はさらに深い山間の景色を映し出すようになりました。ここから先は6つの秘境駅が待ち構えています。
まもなく日本で2番目の秘境駅とされる小和田駅に到着。疎に座っていた乗客が一斉に立ち上がると窓から外の景色を覗き込んでいましたが、誰も降りることなく電車は静かに小和田駅をあとにしました。
次の秘境駅は中井侍。なんとも由緒のありそうな駅名ですが、その由来は不明とのこと。ここでも降りる人はいません。次の電車が来るのは2時間後なので、まぁ当然といえば当然です。
為栗駅から先は、車窓に美しい紅葉が望める人気のスポット。時期はまだすこし早いものの、色づき始めた樹々と青銅色の水を湛える天竜川の美しい景観が愉しめました。
そしてようやく天竜峡駅に到着。4時間に及ぶ長旅も、変化に富んだ車窓の風景を眺めていると思ったほど長くは感じませんでした。秘境駅では一瞬たりとも見逃すまいとスリリングな心理が働いたことも、体感時間を縮めてくれた気がします。
駅前の観光案内所で散策マップを入手すると、約2時間で一周できるという遊歩道について、いろいろと親切に教えてもらいました。
まずは腹拵えと、駅前のお食事処「こや堂」で馬刺し定食をいただきました。長野県の南部を縦に伸びる盆地・伊那谷は、古くは大和朝廷にも軍馬を提供していたと伝わる日本有数の馬の産地だそうです。こや堂の店主によると、この地域では赤身の馬刺しが好まれるとのこと。新鮮で淡麗な味わいの馬刺しをいただくと、長旅の疲れが癒やされていくのを感じました。
さて、いよいよ天龍峡をめぐります。天龍峡は、天竜川の侵食によってつくられた全長約2kmにわたる自然の景観。とくに感銘を受けたのは、高さ70メートルの岩壁が聳り立つ龍角峯と、長さ約80メートルの吊り橋・つつじ橋からの眺めでした。
つつじ橋から下流のほうに向かってしばらく歩くと、2019年に開通した全長280メートルの天龍峡大橋があります。橋の袂まで来たとき、緩やかにカーブする車道と、それを支える橋梁の造形美に圧倒されました。
車道の桁下、天竜川の水面から80メートルの高さに設置された遊歩道「そらさんぽ天竜峡」からは、眼下を流れる天竜川とそれを渡る飯田線の鉄橋が望めます。
今回は紅葉を目的とした旅でしたが、今年は温かい日が続いているので例年より色づきが遅く、地元の方によれば「見頃を迎えるのは来週以降になりそう」とのことでした。
皆さんもこの秋、飯田線に乗って天龍峡の紅葉をめぐってみてはいかがでしょうか。
文・写真=飯尾佳央
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