平安時代にタイムトラベル!秋に咲く桜で宮廷文化「蹴鞠」本来の姿を表現|笹岡隆甫 花の道しるべ from 京都
秋に咲く御会式桜
桜は、秋にも咲く。京都で最も有名なのは、妙蓮寺(京都市上京区)の御会式桜だろう。10月の御会式*の頃に咲き始め、紅葉の時季に見頃を迎える。十月桜とも呼ばれるこの桜、冬にはいったん花が少なくなるが、春にも再び見頃を迎える。2つの季節に楽しめるわけだ。
この十月桜、いけばなの世界では、珍しいものではない。毎年秋には稽古花として使われるほど、入手が容易でなじみがある花材だ。また、秋に春の風情を表現することができるので、イベント等でも重宝する。
「岡崎明治酒場」で平安時代にタイムトラベル
2018年10月、東京五輪に向けた機運醸成試行プロジェクト「岡崎明治酒場」に参画した。明治150年を祝い、文化施設の集積する京都・岡崎エリアを一夜限定で明治時代に変身させる試み。ゲストはお酒を片手に各所をめぐり、主客の交流から未来の伝統・アートを生み出していく。
未生流笹岡は、創流100周年を翌年に控え、周年記念事業の一環として、岡崎明治酒場に全面協力した。最も力を入れたのは、平安神宮でのプログラム「王朝の夕べ」だ。一帯が明治時代に染まる中、ここだけは平安時代にタイムトラベルする。
日没後の午後6時半、平安神宮の応天門。王朝の貴族たちが花をいけたらこんなふうになるのではないかと想像しながら、能楽師の独調に合わせ、狩衣姿で高さ3mの迎え花をいけあげる。次に、応天門から本殿へと向かう白砂の空間に会場を移す。ここで行われたのは、宮廷文化である「蹴鞠」をテーマとした花と能のインスタレーション*。本殿を背景に、小川裕嗣氏による樂焼の大作花器4点が浮かび上がり、8名の華道家が花をいける。続いて、その中央で宇高竜成氏による能が披露される。
京都御所の茶会でも行われる蹴鞠
空間構成のヒントを与えてくれたのは、衣紋道山科流30代家元後嗣の山科言親 氏。私たちが普段目にする蹴鞠は、竹を4隅に立てて鞠場を作るが、これは仮設のものだという。2019年に天皇皇后両陛下から京都御所での茶会にお招きいただいた際にも蹴鞠が披露されたが、竹の鞠場だった。しかし、本来の鞠場は、桜(東北)・柳(東南)・楓(西南)・松(西北)の式木を4隅に植えるのが正式だという。4種の木はそれぞれ、春、夏、秋、冬の象徴だ。
蹴鞠を披露する8名の貴族は南から一列になって鞠場に向かう。鞠場の手前で左右に分かれて、四隅の式木に向かい、対角線同士が同時に鞠場に入場していく。われわれ華道家8名は、その美しい動きを真似て入場し、四隅に置かれた大作花器に、2人一組で桜・柳・楓・松をいけた。ここで使用したのが、冒頭に紹介した十月桜だった。
また、岡崎公園の「花酒場」では、未生流笹岡の師範代がゲストを迎えて日本酒を酌み交わし、京都モダンテラスを明治の社交場「鹿鳴館」をテーマにしたいけばな作品で彩った。
実は、この「岡崎明治酒場」には、モデルがある。2014年から東映太秦映画村で開催されている「太秦江戸酒場」だ。私も2015年の第2回から、何度か参画しているが、お酒を片手に、美味しい料理、そして日本の文化・芸能を味わえる乙なイベントだ。これまでは期間限定で行われているが、来年からは常設も視野に入れていると聞く。新たな夜の京都の楽しみ方として定着してくれるのではないかと期待している。
文・写真=笹岡隆甫
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