【土佐の皿鉢料理】華やかな皿にあふれんばかりの山海の幸(高知県高知市)
「土佐料理 司 高知本店」の目を見張るほど立派な皿鉢料理を前にしてお話を伺ったのは、RKC調理製菓専門学校の元校長で、土佐料理に精通する三谷英子さん。
皿鉢料理の起源は直会*1にあり、江戸時代、本膳料理*2に彩りを添えるために、料理を大皿(皿鉢)で供したのが始まりだという。
「その後、皿鉢料理は形式を重んじる本膳料理から離れて、土佐ならではのおきゃく文化と結びつきながら独自に発展し、郷土料理として定着したんです」
「おきゃく」とは土佐弁で宴会のこと。気どらない宴で杯を交わすのが大好きな土佐の人。そこに欠かせないのが皿鉢料理なのだ。
皿鉢料理は、特定の料理を指すわけではない。「大皿に盛りつけてあれば皿鉢料理。ルールはあってないようなもの。ただ、会席料理と同じように前菜からメイン、甘味まで……全部盛り込むのが基本ですね」と三谷さん。
おきゃくの規模に応じて皿鉢の数は変わるが、もともとは、旬の魚の刺身のみを盛りつける「生」と、寿司や煮物、揚げ物、果物などさまざまなメニューをまとめて盛りつける「組み物」に大別でき、別々に出すのが基本だった。そのほかにも、大人数になるほど、そうめん、蒸し鯛、ぜんざいの大皿など、バラエティーに富んだ皿鉢料理が見られたという。
「昔のように大勢が集うおきゃくは少なくなって、今はこんなふうに一つの皿に盛り合わせる『全組』がほとんどですね」
皿鉢料理のよいところは、「調理をする人も、ご馳走をさっと出し終えたら、一緒におきゃくに加われること。好きなものを好きなだけ楽しめますしね」と教えてくれた。土佐のおきゃくには、こうした点がよく合っていたのだろう。お正月や結婚式も皿鉢料理で祝うという。「人数を気にせず融通が利くし、自由で合理的よ」。そして何より、土佐人のおもてなしの心意気があふれている。
文=神田綾子 写真=阿部吉泰
出典:ひととき2023年1月号
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