断片1.1
呟きの場で、呟いているだけだと、どんどん流れていってしまうので、流れていかない場で、整理の断片を書きとどめておこうと思う。
私の、常なる、そして唯一に成立し得る願いは、
〈匿名の誰かに出逢いたい〉 ということなだろう。当たり前になりすぎて、耳の後ろの方に眠っていた極めて個人的なテーマを、ふと思い出す。
匿名。その人の固有の〈顔〉だけが現れる場。その後ろに、国の名前も民族の暑苦しさも会社のブランドも、何も引き連れてはいない場所。
池の東側ではなく、北側。シェアハウスではなく、ワンルームに一人暮らしをしていた頃。マニッシュな直線の服装のスタイルが似合うほどに、若さの曲線が、まだ身体に溢れていた頃の、一連の経過。
私の、ブーバー『我と汝・対話』の時期は、レヴィナスの前にあったはずだ。レヴィナスは、大学生の長い春休みに、同じ専攻の6人でソウル旅行を敢行した際に携帯して読んでいた。だから、その時期より前のはず。
その春休みから一つ遡り、夏の厳しさが無くなった頃から秋口にかけて。たった一つの湧出点から「花」にも「石」にも「私」にもなる毎瞬毎瞬で構成され、〈自我〉という押し付けの、圧迫する視線が存在しない、あのイスラムな空間を愛でながら、駅と家の間の高級住宅街の道を歩いていた。その記憶は色付きで手元にある。そのコンフォートゾーンから必要に迫られてブーバーを手にしたのは、おそらく冬の匂いが微かにしてきた頃なんだろう。たいてい、必要に迫られての〈必要〉は、恋愛のゴタゴタの後に訪れる。
ブーバー『我と汝・対話』。今気づいたことだが、これも古本で手に入れて持っていた気がする。「これから貴方の人生はリスタートされて、薔薇色の新しい未来が待っています」というスローガンの下に、一人大移動の決心をした際に処分した本のリストが、また一冊増えてしまった。
フロイト『モーセと一神教』
モース『贈与論』
デリダ『死を与える』
カール・ポランニー『経済の文明史』
フェルナンド・ペソア『不穏の書、断章』
ブーバー『我と汝・対話』<- new 思い出した
リスタートのスローガンは、決まって情弱な羊を捕まえては、知らぬ土地へと移住をさせる。日本からハワイへ。ベトナムから日本へ。ヤワに捕らえられないのは、華僑だけだ。
〈歴史の語りをいかにして語り出すのか〉という、残された問いに至るまでには、幾つかのステップがあった。イスラム->ブーバー、ブーバー->レヴィナスは、その第一、第二ステージだった訳で、その一歩一歩は、革命的な変化の軌跡だ。最後に残されている問いの周りで、今の私が彷徨っているなかで、過去のそれぞれの変革で何が起きたのかを、厳密に整理する作業。それが課題リストに書き加えられる。
その時々の問いは、リアルタイムで片付いていて、解は既に得られている。それでも今になってきちんと言語化しつつ、ひょっとしたら一度手放した本をまた集めつつ、読み直しつつ、振り返る作業をしていくなかで、この断片がどうナンバリングされるのか、続く断片が果たしてあるのか、わからないけれど、ひとまず日記として記しておく。