フリースタイル書評バトル第2回「出版芸人」ーNo.4『僕はビートルズ』
本と出会えるサイトホンシェルジュの新企画「フリースタイル書評バトル-芸人編-」。芸人におすすめの本を紹介し合ってもらう執筆バトルで、皆さまからの投票で連載権を獲得する芸人が決まります。(詳細は過去のnoteをご覧ください)
ホンシェルジュのサイト上にアップした本企画の記事ですが、このマガジン記事では芸人による作品紹介文の部分だけを読みたいという方向けに、1作品ごとに公開しています。
■第2回「出版芸人」参加芸人
当記事は、こちらの参加者のうちの誰か1名が執筆したものです。
・芋洗坂係長
・Hi-Hi 上田浩二郎
・マシンガンズ 滝沢秀一
・オジンオズボーン 篠宮暁
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No.4『Iターン』
ゴッドファーザーに憧れた。
アンタッチャブルにシビれた。
ブラックレインに打ちのめされた。
いつも「ワル」になりたい自分がどこかにいたが、「悪(あく)」にはなりたくないので踏みとどまってきた。
果たして 「ワル」=「悪」なのか?決してそうとは言いきれない。映画などでは往々にして「ワル」い男にこそ美学があり、「善」のふりした本当の「悪」を倒してくれるものである。
さてこの物語、主人公は「悪」でもなければ「善」とも言いきれない、40過ぎのしょぼくれオヤジである。
会社では年下の上司にいじめられ、家に帰っても居場所はない。そんなダメリーマンが 「修羅の街」に左遷される所から物語は始まる。夢も希望もなく、あるのはただただ絶望のみ。そして左遷された土地で「悪」い人達とのアクシデントに片っ端から巻き込まれてしまう。
しかし、そんなダメ男は仮の姿で実は出来る男。そこから頭を使ってスカッとピンチを切り抜け、悪い奴らを気持ちよくなぎ倒して勧善懲悪!……とはまったくならない。
なんなら、どんどん悪い方向に追い込まれて行き絶体絶命の繰り返し。そのたびに、ほんの少しの悪運で命だけは助かるが身体はボロボロになる一方。しかしいつしか、巻き込まれたヤクザとの繋がりのなかで少しずつ芽生えてきたものがあった……。
街角に漂ってくる豚骨スープの匂い。
店の外の換気扇から出てくる焼肉の煙。
コンクリートにぶつけて折れた歯と、その血の匂い。
雨の日の土の匂い。
鮮明な描写で、絵だけでなく痛みや匂いまでしっかり伝わって来るので、いつの間にか完全に感情移入し物語の主人公に成りきっている自分がいた。
この作品には色んな悪人が登場する(「悪」を強調させるため敢えて悪人と言わせていただきます)。見た目どおりの悪い人、いい人風に近づいて利用しようとする悪い人、自分の保身のため相手を蹴落とす悪い人。
そんななかでこんなセリフをつぶやく怖い人が。
「そもそも、他人に迷惑をかけていない人間なんて存在しません。迷惑をかけていないと思い込んでいる人間はたくさんいますが」
(『Iターン』より引用)
社会に対する冷静な目線を持った人の登場で、主人公の意識にも変化が。
そして、胸のすくような気持ちのいいラストシーン。 最初に申し上げたとおり、主人公が悪をバッタバッタとなぎ倒す勧善懲悪なんてどこにもないが、「悪」に触れ、向かい合った結果生まれた主人公の成長に静かに「よし!」と拳を握れる。
この作品は間違いなく、私の「ヒーローもの」の1冊に加わった。
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