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エッセイ 車の後部座席で読んだゲームの取扱説明書。
車の後部座席で読んだ、取扱説明書。
箱を開け、説明書を端から端まで読み、想像をふくらませる。
それだけでもう楽しい。
“町のおもちゃ屋さん”っていう、好きなフレーズがあってさ。
あのころ、「町のおもちゃ屋さん」とでもいうような、その地に馴染むお店が、みなさんの近所の通りなんかにもあったと思う。
ほかにも、地域に限定してチェーン展開するホビーショップもあった。
とりわけ、個人が町場で経営する「ゲームショップ」は、ビデオゲームの隆盛にあわせて店舗を増やしていったように思う。
私のところ、福岡のはるか西の果てと呼ばれて久しい糸島にもそれがあった。
一軒家を平たく伸ばした建屋で、個人が経営する小売店。
そういうたぐいのもの。
糸島にあった町のおもちゃ屋さんの名前は、「由比」という。
さすがにもうないのかな、と思って調べてみたら、なんとまだあるらしく、今度糸島に帰るときに覗くつもりでいる。
🎮
「町のおもちゃ屋さん」といえば、子供にとっては胸をときめかす場所だった。
大人だって負けてない。
当時の、様々なホビーが現れては消えて行く栄枯盛衰の流れの中で、子供に負けないくらいワクワクしていた人達だってたくさんいただろう。
そのころの「町のおもちゃ屋さん」は、小規模の個人経営ではあるものの、昨今のアパレルショップやブックカフェでみられるようないわゆる「セレクトショップ」の趣は薄かったように思う。
どちらかといえば、特定のジャンルのものを重点的に仕入れ、雑多に積み上げられたおもちゃやズラリと並んだゲームの箱を目にした客をときめかす……そんな場所。
たとえば当時「由比」に行けば、とにかく私の目を輝かせ心を躍らせるものがたくさん積んであって、それを店主が自慢げに見せてくれて、そうしたホビーの群れが自分を取り囲む。
そこで味わえる空気感が、私はたまらなく好きだった。
あのころ、ゲームを買うならば。
私が、もともと「町のおもちゃ屋さん」のような、その地に馴染むお店に好い印象を持ってしまうというのもあり、さらには「由比」をふと思い出してしまったために、冒頭が「町のおもちゃ屋さん好いよね……」の話になってしまった。
どちらかといえば今回話したかったのは、おもちゃ屋でゲームの買ったあとの、ひとときの話。
由比の思い出の話は、また別の記事でやろうと思う。
🎮
町のおもちゃ屋さんを語ったあとでコレを言うのはやや憚られるが、おもちゃやゲームを買うとしたら、別におもちゃ屋さん一択というわけでもなかった。
ゲームソフトを扱うお店がゲームショップ以外にももちろんあり、そこを車で巡る。
たいていは、朝のうちに新聞の折り込みチラシでセールをしているお店の存在を知り、買いたいゲームやおもちゃに赤いマジックで〇をつけ、ふつふつと沸く気持ちをおさえ平静さを装いながら、お店に向かうわけ。
たとえば、デパートや百貨店のゲームコーナー。
家電量販店やチェーン展開しているゲームショップ。
とくに「おもちゃのBANBAN」をまだ覚えている有志がいたらコメントに書いてほしい。
それに加え、町のおもちゃ屋をはしごするというのが当時の定番だったと思う。
あのころの福岡西部でいえば、新作ゲームを買いたければまずはベスト電器に行き、おもちゃのBANBANへ赴き、サンリブのゲームコーナーに一縷の望みを託しつつ、町のおもちゃ屋を巡る。
そんなお買い物周遊コースが自然と組まれた。
私は当時、ゲームソフトもゲームハードもLSIゲームもTCGも、そうして町を巡りながら手にする。
土曜日か日曜日の元気よく晴れた昼下がり。
両親に頼み込み、車で各所を巡りつつ。
まず、車の中で箱を眺める。
赤マルをつけたチラシを手に、ゲームを買ってもらえた私は有頂天。
お店を出たあとはひしとそれを抱きしめ、車の後部座席に乗り込む。
ゲームソフトのパッケージは、子供の手には十分な大きさと手ごたえがあった。
車が走り出して国道202号線に乗った帰り道。
後部座席に乗る私は袋から新品のゲームソフトを取り出す。
運転席で父が言う、
「車が動いているときに文字を読むと酔うよ」
なんて、何度言われても聞き流していた。
車の後部座席でパッケージを眺めたときから、もうゲームははじまっていたのだから。
🎮
おもてのパッケージイラストをしげしげと眺め、うらのゲーム画面や解説文を読んで実際のプレイングをイメージする。
パッケージをひとしきり楽しんだあとは、開封して取扱説明書に移るのが定番だった。
取扱説明書は、ちょうど家に着くころには読み通せるページ数。
冒頭の、ゲームの世界観を語るあらすじを読み、次に操作方法を読み、ちょっとしたコツを知って、登場するキャラクターを一覧する。
最後の奥付にざっと目に通した。
時間が余れば2週、3週と繰り返す。
ゲームをプレイしはじめる前から、そのゲームに対する世界観の醸成がはじまっていた。
そして家に着けば、まっさきに自分の部屋かリビングに駆け込む。
くつしたを履いた足で、フローリングを空回りする速さで駆けるような、そんな勢いで。
ゲーム機に取り出したてのゲームを突っ込み、電源を入れた。そこからは晩ごはんで呼び出されるまで夢中になる。
ちなみに、操作方法だけは取扱説明書を何度も読んだところで、実際のプレイングに勝ることはない。
それでも私は、視線で穴を開けられるほどに取扱説明書を読み込む。
毎回。車の中で、実際に操作する前に。
新品のゲームを手にしたワクワクの余韻に包まれながら。
そのワクワクを種火にして、ほどよい火のぐあいで想像を広げてくれるゲームのパッケージと説明書。
それは火花を散らすように、私の童心を刺激しつづけてくれた。
ふいにそのことを思い出し、エッセイとして一気に綴った。
在りし日のよすがのようなものを。
了
よすがとあとがき。
みなさんこんばんは。
先週のコタツムリ、ななくさつゆりです。
今回は「町のおもちゃ屋さん」のことと、当時ゲームを手にした自分が説明書を読むだけでどれだけ無限大のワクワクを得ていたかという話をしました。
今年着手する予定の小説で、こうした在りし日のホビーのことに触れたいと思っており、その心の整理の過程で出てきた「由比」から、芋づる式でどんどん語れることが湧いて出てくる今日この頃です。
ともあれ。
今回もここまでお読みいただきありがとうございます。
ひきつづき情景のエッセイをお届けしてまいります。
よかったらスキやフォロー、応援をよろしくお願いいたします。
それではみなさま、よい一日を。
ななくさつゆり
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