世代考察番外編 ~18年×4と以前以後~
1、分けることは分かること
6年ごとに区切って世代考察の記事を12回書きました。
これは6年くらいがちょうどいい、と思って区切ったわけですが、歴史において時代区分が人工的なものであるのと同じように、絶対に6年で区切らなければいけないというわけではありません。あくまで1つの枠組みです。
時代区分というものは、その歴史家の認識によっていくらでも変えられます。「先史」「古代」「中世」「近代」「現代」という、西欧の歴史学で作られた枠組みは、非常に使い勝手が良いので各国で真似されてきましたが、所詮1つのツールに過ぎないので、当てはまらないケースは多々あるのです。日本史では、「中世」と「近代」の間に「近世」という枠組みが入れらることが多い。また、政治の中心地別に時代区分される方法もとられています(鎌倉時代・江戸時代など…)。詳細はこちらをご参考まで↓。
その発想で行くと、「住所の中心地別」に、自分の歴史を区分してみても面白いですね。最初は〇〇に住んでいたので〇〇時代、19歳で大学の近くに引っ越したので△△時代、という感じです。「マイブーム」を軸に区分してみてもよいです。◆◆というスタイルを目指した◆◆時代、◎◎というスタイルに変化した◎◎時代、というように。テーマを絞って区分してみると、また違った視点が得られると思います。
細かいことを言えば、歴史の書き方には有名な2つの方法があります。「編年体」と「紀伝体」です。東アジアでの伝統的な歴史の書き方です。t.oishiさんのnote記事がわかりやすいので、リンクを貼りました↓。
要は、「時間」に注目するか、「人」に注目するかの違いです。
◆編年体…「時間」に注目して、時系列で書いていく。
◆紀伝体…「人」に注目して、エピソードを書いていく。
編年体の方が、かっちりと進んでいってわかりやすいのですが、羅列的になりがちです。紀伝体の方は、印象には残りやすいのですが、前後関係がわかりにくくなります。どちらも一長一短あります。
6年で分け、年齢順に書いていくのは、典型的な「編年体」ですね。先ほど述べた「住所」や「マイブーム」で分けるというのは、そこに「紀伝体」のエッセンスを加えたものです。「人生を揺るがせた大事件」や「ターニングポイント(転機)」にのみ注目すれば、「紀伝体」となります。
国や世界の歴史を扱うと「歴史認識問題が〇〇××…」と言われてしまうこともありますが、自分の歴史、すなわち「自分史」であれば、自分の好きなように主観的に分けて書けばいいと思います。その1つの枠組み、共通のツールとして「6年ごとに分ける」という枠組みを提示してみました。
なお、前の記事でも挙げましたが、「写真」「動画」「ゲーム」など、書かない自分史という方法もありますので、ご参考まで↓。
いずれにしても、ともすれば細かい出来事に埋もれそうになる自分の歴史を、何らかの視点で分けて整理して棚卸しすることは、これからの行動につながります。まさに「分けることは分かること」なのです。
2、18年で分けてみる
6年ごとの区切りはツールに過ぎませんので、自分の好きなように分けられます。ここでは1つの例として、72年までの人生を、6年×3=18年ごとに分け直してみましょうか。
◆0歳から18歳:「保育」「学童」「思春」→いわゆる「少年期」
◆19歳から36歳:「成人」「自立」「適齢」→いわゆる「青年期」
◆37歳から54歳:「不惑」「中堅」「思秋」→いわゆる「中年期」
◆55歳から72歳:「還暦」「円熟」「古希」→いわゆる「熟年期」
この4つで分けるのも、意外としっくりきますね。
少年か青年かというのは、明確な定義があるわけでないので難しいですが(「青少年」とまとめたりするので)、30歳代でも「商工会議所の青年部」などと表現したりしますので、妥当かなという気がします。中年は「壮年」と言い換えても良いですが、「中堅」があるので「中年」にしました。「熟年」は「老年」でも良いですが、55歳はまだ若いかな…と思ったので「熟年」にしています(熟年離婚、という言葉もありますし…)。
せっかくなので、それぞれの18年に合う漫画を紹介してみましょう。
◆0歳から18歳:「保育」「学童」「思春」→いわゆる「少年期」
ひぐちアサさんの『おおきく振りかぶって』です。いわゆる高校野球漫画なのですが、この作品の特徴の1つに「保護者の視点」を入れていることがあります。主要キャラは高校1年生(16歳前後)なのですが、家族構成や小さい頃のエピソードまでみっちりキャラ設定されており、表紙カバーの裏で漫画にされていたりします(それがまた面白い)。特に主人公の三橋(みはし)のエピソードは感動的です。
16歳はただ16歳なのではない。人に歴史あり。保護者に育てられてきた16年の歴史を経て今ここにいるのだという、作者のメッセージが込められているように思います。地方予選の開会式で「保護者が自分の子どもが行進しているのを見て感動して騒ぐ」などの具体的なシーンが出てくるのも、この作品ならではです(実際の開会式でもそんな様子は至る所で見られます。一生懸命育てた我が子が行進していると感動しますよね…)。
※「おおきく振りかぶって」を「ピカレスクロマン」の観点から捉えたnote記事も書きました。他の野球漫画にも触れています↓。
◆19歳から36歳:「成人」「自立」「適齢」→いわゆる「青年期」
浦沢直樹さん・勝鹿北星さん・長崎尚志さんの『MASTERキートン』です。主人公のキートンは、30歳代半ば~後半かな?というところですが、考古学者としての側面もありますので、どうしても若い「学生~学者」というイメージなんですよね。学生結婚・離婚も経験しており、初登場時には女子中学生だった娘もいますので、22~23歳くらいで結婚・娘誕生?+娘14歳くらい=36歳前後かな?と思います。
ちなみに、最終回より後のエピソードをまとめた『Reマスター』では、しっかりと歳をとって、40歳後半~50歳くらいになっています↓。
まさに「知的サスペンス」の傑作ですので、未読の方はぜひご一読を…。ルーマニアで遺跡を発掘したくなります(笑)。
◆37歳から54歳:「不惑」「中堅」「思秋」→いわゆる「中年期」
王欣太さん・李學仁さんの『蒼天航路』です。いわゆる三国志モノなのですが、有名な横山光輝さんの『三国志』が劉備を主人公にしているのに対して、こちらは曹操が主人公。完璧超人ぶりを発揮する曹操、憎々しいまでの「悪のカリスマ」「ちょい悪オヤジ」を存分に味わえます。
「三国志」の舞台が本格的に始まる「黄巾の乱」が起こった時、曹操はすでに30歳なんですね…。曹操は、働き盛りである37歳~54歳頃にかけて、大勢力となる土台を固めていきます。37歳頃には、黄巾賊の残党である「青州兵」を部下に取りこんで実力を持ち、45歳頃には最大のライバルだった「袁紹」を破って覇権を確立するものの、53歳頃には有名な「赤壁の戦い」で敗れてしまうのです。曹操にとってもこの「中年期」は、正念場の連続の勝負所だったのかと思います。
細かいところはともかくこの漫画、圧倒的に人物描写が面白いので、未読の方はぜひ。曹操が完全なだけに、それと対比して他の人物の特徴が際立つ、という構図になっています(敵陣営のライバルたち、曹操の軍師たちなど)。「唯才」を唱えてに人の才能を愛した曹操。この中年期には、自分の才能を磨き、しかもそれを実際に発揮していくことが必要ですね。
◆55歳から72歳:「還暦」「円熟」「古希」→いわゆる「熟年期」
坂口尚(さかぐちひさし)さんの『あっかんべェ一休』です。漫画としての知名度は上記の3作ほどではないかもしれませんが、この漫画を読まずして死ねるか、というレベルの傑作です!
坂口さんは手塚治虫さんのアニメ会社「虫プロ」に在籍、数々の名作を裏で支えた方です。漫画の神様と言われた手塚さんの後継者かと、一部から言われたこともありましたが、49歳の若さでこの世を去りました。
あの「一休さん」を主人公にした漫画ですが、「とんち小僧」のイメージだけで読み進めるとカルチャーショックを受けるでしょう。破戒僧にてちょい悪ひげオヤジ、「門松は冥途の旅の一里塚 めでたくもありめでたくもなし」と狂歌を詠んだかと思えば、仏教界の重鎮にケンカを売る。まさに破天荒な生涯。87歳まで生きたのですが、臨終に際して「死にとうない」と述べたと言われています。文字通り命がけで生き抜いた一休と、作者の坂口さんの生涯が重なり、またとない傑作になっています。
3、火のコウノドリ
いかがでしたでしょうか? 今回の記事では、時代を分けることと、18年ごとに分け直した時のそれぞれの世代のオススメ漫画を取り上げました。
最後に、今回は深く取り上げなかった「73歳以後」「0歳以前」について、2つの漫画を紹介して締めにします。
「73歳以後」につきましては、こちらをどうぞ↓。
73歳以後も人生は続いていきますし、何歳になっても学べることはあります。たとえ死んでも、人々の記憶や記録に残る限り、その人は生き続けます。その意味で人生とは、手塚治虫さんの『火の鳥』のように、消滅と再生を繰り返すものなのかもしれません。
「0歳以前」についてはこちらを↓。
必死に生きていると、つい最初から自分の足で立っていたかのような錯覚を覚えますが、あの人もこの人も、最初はみんな赤ちゃんでした。
鈴ノ木ユウさんの『コウノドリ』では、人が世の中に生まれることの奇跡を描いています。人は生まれる前からすでに、歴史を背負っています。両親について、祖父母について、色々と知ることが自分を知ることにつながります。自分についてを考えるためには、まず自分の誕生やそのルーツについて、調べてみてはいかがでしょうか?
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。