この曲について、自分の音探しの旅の終着点 ~ カラヤン指揮「白鳥の湖」
録音媒体に収められた音と、脳内再生音の違い
脳内に刷り込まれている音があります。
そのメロディはいつでも思い出せるし、いつでも口ずさむこともできる。
ただ、その音は、いつも身近であるがゆえに、自分なりのテンポや音の強弱や音色でもって、脳内で再生されています。
この音が有名であればあるほど、フレーズがわかりやすいほど、脳内再生音は、自分だけの音になっていきます。
そのくらい自分にとって身近になっているからこそ、いつでもその音を聞きたいと思うのは自然な流れで、録音媒体をいくつか揃えたくなります。
ここで、問題になってくるのが、録音媒体に収められた音と、自分的にアレンジされた脳内再生音の違いです。
これが顕著であればあるほど、その録音媒体は座右の一枚にはならず、座右の一枚を探す旅が繰り広げられることになります。
この違いというのは、「スピード感」、だったり、「間」、だったり。
そんな音楽をいくつか紹介していきましょう。必然的に、これらは、クラシック音楽やジャズのようなボーカルのない曲になっていくわけですが。
「白鳥の湖」
有名ですね。誰もが知ってますね。
最初から最後まですべて知っていなくても、あの有名なフレーズは誰もが知っていることと思います。
だからこそ、お気に入りの、つまり、自分の脳内再生音に近い1枚を見つけるのがとても困難。そんな曲の代名詞ともいえます。
その有名なフレーズは、(最近知ったのですが)「オーボエ」で始まります。そして、白鳥の儚い美しさ、ロシアの森林の奥の方にある、霧に煙った湖で一人静かにたたずむその姿を表現するかのような美しいメロディが奏でられます。
そして。その物語は風雲急を告げ、音楽も徐々に盛り上がっていき、、あの有名なメロディがダイナミックに展開されていきます。
この、誰もが知っている組曲の中の1曲。
これが、自分に合うものがなかなかない。
いわゆる廉価版で聞いてみても何かちがう。
オーボエが早すぎたり、間が空きすぎたり。
それならば、、とロシア(ソ連)の指揮者にあたってみたが、やはりなにかちがう。。。遅かったり。感情的に過ぎたり。
自分の音を探し求めて幾星霜。
この違いは、個人の感覚故、だれかに共有も困難。そのため、自分の音探しの旅は、必然的に孤独な旅路にならざるを得ません。
そして、
ある日。
ついに出会ってしまいました。
灯台下暗し。あまりにもこの指揮者が有名すぎて、まったく気にしていなかった。その1枚はこちらです。
このステキなジャケットに包まれた1枚は、チャイコフスキーの有名バレエ曲のオムニバス版。著名曲をピックアップしていますので、とても聞きやすい。
指揮者はカラヤン。
そう、カラヤンの1枚が、僕の音と合致していたのです。
テンポも、ダイナミックさも。
後半に向けてスケールアップしていくその様も。
この音の向こうに、白鳥が見えるような気すらしました。
そして、その白鳥に感情移入すらできる。そうすると、涙ぐんできたりします。
果たしてこの1枚が、カラヤンにとって、最高の演奏かどうかはわかりません。ただ、自分にとっての最高の演奏であることはたしか。
そう、苦節12か月の旅は、ここに終わりを告げたのでした。
その後も、何度か、この曲の演奏を聴く機会がありましたが、なぜかこれを越えるものはなかった。
まあ、それはそれとして、こんな風に、自分史を彩る1枚に出会えた僥倖を想う日々です。