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90年代の音楽シーンを辿る旅Vol.4 ~ ロックからブラックミュージックへの変遷

ロックからブラックミュージックへ

映画は時代の世相や文化を色濃く反映しています。

「天使にラブソングを2」という映画が公開された93年の音楽的な動きの一つは、「ロックからブラックミュージックへの移り変わり」でした。この時期、ロック×ブラックミュージックのクロスオーバーやコラボが一段と進んだ時代だったと思います。

90年代に入り、80年代から見え隠れしていた格差や、湾岸戦争や欧州の内戦などの世界的な戦乱を背景に、ロックという音楽は、愛や夢を歌うよりも、生活現場視点での社会的鬱憤を晴らすかの如く怒りのパワーがより強くなりました。歌い上げるのえはなく、叫びに似た楽曲が多くなり、演奏も同様にラフなスタイルになっていきました。

つまり、音楽からメロディが消えていった。

ロックが迎えた新たなブームの発火点となったバンド、ニルヴァーナは、リーダーのカート・コバーンの自殺であっという間に終了。このブーム「グランジ」は他にめぼしいバンド不在で、ニルヴァーナと共にジャンル自体もあっという間に終了。

メロディにあふれたハードロックというジャンルの息の根を止めて、ロックシーンを混沌に変えるだけの役割を担って、短期間でグランジは消えていきました。

残ったのは混沌。

ロックが自ら混沌にはまり込んでいく中、「魂」や「民族に宿っている感情」の叫びであり、かつ生活に密着していたブラックミュージックが台頭するのは歴史的必然だったでしょう。

90年代初頭は、ブラックミュージックの何度目かの復活といってもよいかもしれません。ちょっと歴史を紐解いてみます。

その昔、アメリカ南部でブルーズやゴスペルが誕生し、その後、、、長い歴史を経て、、、、

1960-70 : Jazz

1960年代にかけて、ニューオーリンズやニューヨークなどでルイ・アームストロング、マイルス・デイヴィス、ジョン・コルトレーンなどに代表されるジャズが発展。ビッグバンド、ビバップ&スイングからモード、フリージャズへと発展していきました。

↑この、ルイ・アームストロングの演奏は、これから戦地へまさに飛び立たんとする兵士達に向けてのもの。そんなときに歌うのが、What a Wonderful World なわけですから、素晴らしいなと。みんな、家族の事や平和な世界を思い描いていたんでしょう、表情がすべてを語っています。

1960-80 : Soul, R&B

また、60年代よりR&Bやソウルも発展。スライ&ザ-ファミリーストーン、ジェイムス・ブラウン、スティーヴィー・ワンダー、ビル・ウィザース、テディ・ペンダグラス、カーティス・メイフィールドらが活躍。この流れが1980年代のモータウンからのダイアナ・ロス、マイケル・ジャクソン、プリンスへとつながっていきます。


1980 :  Cross Over

これが加速し、80年代末にどんどんクロスオーバーしていきます。その先端にいたのが、マイルス・デイヴィスで、彼は晩年、ヒップホップとジャズ、ポップスとジャズを掛け合わせたような展開をしていました。


1980-90 :  Hip Hop

1990年代は、新たなブラックミュージックの萌芽が見て取れた時期。それは前述のヒップホップ(ラップからの)。こういった音楽がストリート上で、R&Bやクラブ・DJ文化、クラシカルなジャズやロック、メタルと結びついて大きな隆盛を見せ始めます。

ローリン・ヒル、マライア・キャリー(彼女は音楽的にブラック系の要素)、BoyzⅡMen、ホイットニー・ヒューストン、ジャネット・ジャクソン、メアリーJブライジ、アリーヤ、アリシア・キーズ、、

ヒップホップ自体は、1970年のストリート&ディスコなどのクラブハウス・シーン(いわゆるスキッドロウ)でその原型が誕生。1980年代には。Run-DMC、パブリック・エネミーらが牽引役となりました。

そして1985年に、復活したエアロスミスとコラボした「Walk This Way」が大ヒット。チャートインを果たしました。

そしてこの流れから90年代に突入していくわけです。この90年代初頭から半ばの音楽的世相が、「天使にラブソングを2」の中にも見て取れます。

1993 : 「天使にラブソングを2」

前作は厳粛な教会および教会音楽の延長線上に、R&Bテイストをまぶしておりましたが、今回の舞台はストリートに集う若者が通う高校。

合唱や歌唱力に磨きをかけた聖歌隊が、教会から外部の高校(ストリート)に出て、高校生主体の聖歌隊を結成させ、そこでさまよっている若者たちを、音楽の力で方向づけていくようなストーリーです。

前作よりも楽曲テイストが世相を反映したものになっています。が、全員の意思が一つになったうえで奏でられる音楽には特別な力があることがわかります。

前作に似ていますが、引っ込み思案だった少年が周囲を驚かせるくらいの高音の歌唱力を発揮していったり、ドロップアウトしそうな少女が、音楽や、主人公デロリスの力を借りて本来自分がやりたかったことに目覚めていったり。

そしてその面々がラストに奏でた音楽は、今のアメリカが抱える問題を逆説的に炙り出します。

音楽は、人種や立場、言葉を越えた力を持っていますね。そして、音楽の流行が、ロックからブラックミュージックへと移り変わっていたこともわかりますね。

そんなことをこの映画をみて、再認識するのでした。(90年代のグランジ・ファッション、ストリート・ファッションを見るのも面白いですね。)

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