「雁と大造じいさん」

今年も、おれは、雁たちを率いて、沼地にやって来た。狩人たちはおれのことを「残雪」と呼んでいる。おれの左右の翼にある真っ白な交じり毛が残雪のように見えるのがその理由らしい。
 
って、どこかできいたような。
そうです。これは、椋鳩十による作品「大造じいさんと雁」を、雁の視点から翻作したものです。原作は、次のようです。
 
今年も、残雪は、雁の群れを率いて、沼地にやって来ました。残雪というのは、一羽の雁につけられた名前です。左右の翼に一か所ずつ、真っ白な交じり毛をもっていたので、狩人たちからそう呼ばれていました。
 
このように、語り手の視点をかえて翻作する過程で翻作者は、原作の展開や文体、内容や表現・表記の細部について、より詳しく認識することになります。その結果、原作のイメージ世界がより鮮明になり、理解と味わいがさらに深まります。どう表現するかを工夫する経験を通して、表現力が高まります。
 
同様の翻作学習は、説明文でもすることができます。
例えば、魚のサケに関する説明文ならば、
 
私たちは北の海にすむ大きな魚です。私たちの体は七〇センチメートルほどにもなります。みなさんは、私たちがどこで生まれ、どのようにして大きくなったかを知っていますか?これからそのお話をします。大人になった私たちは、秋になるころから、おおぜい集まって、卵を産むために、海から川へやって来ます。
 
というように、説明される側の視点で語る説明文に翻作することができるのです。翻作する過程で、文章全体の展開や細部の説明まで丁寧に読み取ることになり、内容に関する理解が深まり、どう表現しているかについても注意が届くようになり、自分で表現するための力も伸びることが期待できます。
 
ここで示した例は、国語科であつかう物語や説明文を素材にして翻作する例ですが、翻作の素材は、国語教科書だけでなく、さまざまな教科の教科書や参考書、さまざまな単行本や雑誌や新聞、インターネットなどから選ぶことができます。
 
首藤久義著『国語を楽しく—プロジェクト・翻作・同時異学習のすすめ』(東洋館出版社、2023年1月)の「第4章 翻作のすすめ」の「第4節 翻作による学習活動の具体例」の「3 人物や文字・語句・文体などをかえて作る」より。
 
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