スポット イン ザ スポット
文学フリマ大阪(2023/9/10)で知り合った作家の鈴山理市さんのミステリー小説。禁酒法が廃止されたばかりの古きアメリカの小都市を舞台に、サーカスの道化師が猟奇殺人を繰り返す。
登場人物が多く視点も頻繁に変わるが、ストーリーを追っていくのは難しくない。上下巻で850ページという超大作ですが、忙しい人は斜め読みしても大丈夫。もちろん小説を書く身としては、どんな小説でもじっくり読んで欲しいのですが。
私の場合、本書を読みながら「ここは読者に隠しておけば後で読者を驚かせられるのにモッタイない。もっと読者を混乱させたらいいのに」と思う描写や場面が非常に多かった。鈴山さん、一体どれだけ気前がいいの⁉(笑)
それも「あとがき」を読んで納得。「もともとが“ターゲットは自分自身”な、お恥ずかしいほどニッチな動機」と書かれていた。作者の鈴山さん自身が楽しみながら書きたいことを出し惜しみせず思いっきり書かれた熱量がビシバシ伝わって来ましたよ。
鈴山さんは読者に対してサービス精神旺盛のようで、“ターゲットは自分自身”と言われるが、読者を置いてきぼりにすることはない。
おどろおどろしいダークな世界観を描いているが、舞台がアメリカというせいか、不思議なことに陽気でカラッとしている。
残虐で血生臭い描写が多いので万人受けする小説とは言えないが、スプラッター映画が好きな人にはお勧め。楽しんでいる作者と一緒に娯楽活劇を観る感覚で肩の力を抜いて読みましょう。