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父の口座 「本人の壁」


 一人暮らし続行不能となった92歳の父を大阪から東京に引き取ることになった私。父が80代後半に私たち子どもには内緒で、謎の不動産投資を複数件おこなって家賃収入を得ていたことが判明。
 *事実と違うところもあります。あまり楽しい話でありませんが、記憶保持のために文章化しています。

五、ゆうちょで一悶着

92歳の大阪の父が東京の老人ホームに入ってから、父の財産整理をすることになった私が、約一年間でやったことはだいたい以下のとおり。

①不要な銀行口座の解約

②不動産投資のための法人の代表者変更

③地方信金の法人口座および貸金庫の解約とメガバンクでの法人口座開設

④生前贈与の実行

⑤不動産管理料の見直しと管理会社変更

このうちまず初めにやったのが
①の銀行口座の解約である。
ここで私は初めて「本人の壁」にぶち当たることになる。

 ゆうちょ銀行は父名義で複数の3つの口座が存在した。(おそらく父の父や父の姉の名義だったものを相続の時に引き継いだものと思われる)

3口座とも長年取引のないものがほとんどであった。
銀行口座の解約は本人でないとできないことは知っていたが、
父は大腿骨骨折後のため、自力で銀行に行けないので、私が代わりに窓口に出向くことにした。

ゆうちょ銀行のホームページで調べて、本人以外の人間が口座解約する際の「委任状」を印刷し、父に記入してもらった。もちろん本人直筆でなければならない。

これを名付けて「本人の壁」!

目も耳も不自由な父につきっきりで、細かいマス目を一字一字埋めてもらう。父は緑内障で視野がかなり狭まっている。(ちなみに認知症はなく、長谷川式でも合格点である)

そのため名前などはなんとかマス目に記入できるが、口座番号などの小さなマス目に数字がうまくおさまらない。しかも口座が3つのため、委任状も3枚である。そこで数字の一部だけ私が代筆した。

これが致命傷となった。
そう、「本人の壁」!

いざ、ゆうちょ銀行へ。案内の女性に用件を話し、委任状を見せると「ちょっとよく見せてください」と、書類をしげしげ検分している。これはまずいな。雲行きが怪しくなってきた。

「これは本当にご本人がお書きになったものですか。」
「はい。」
「お父様が?92歳のお父様が、本当にこれを?」
「はい。」
「ここの筆跡が違いますね!もし別の方がお書きになったのなら有印私文書偽造にあたりますよ。」
「いやいや、そんなことはありません。ただ高齢なものですから数字のところだけ少し手伝いました。」
「それではだめです!ご本人がお書きになれないなら、後見人制度を申請なさったらどうですか?」

出た!「本人の壁」!

女性はかなりの剣幕である。完全に詐欺扱いされている。
怪しい中年女が高齢男性を騙して口座を解約の疑い。確かにこのご時世だからな。
これはアウトの予感。
それに、後見人の下りで、
私も頭に血が昇ってきた。

騒ぎを聞きつけて、奥から役職者っぽい男性が顔を出す。

そしてカウンターの内側に呼び寄せられ、銀行印の確認などを求められた。
父がゆうちょ銀行のものだと言っていた印鑑は、はずれだった。完全に父の記憶が怪しいのだ。こんなこともあろうかと、印鑑の山の中から数本をピックアップして持ってきたものを見せた。そのうちの一本があたりであると、男性はそこっそり教えてくれた。
そして、今日のところは受け付けられませんがもう一度、委任状を本人が記入するか、本人を連れてきてくれれば、なんとかすると言う。

一応、納得したふうな返事をしたが、
詐欺扱いされたことで頭にきた私は、後日、別の支店で、無事手続きを済ませた。

銀行職員さんにしてみたら、当然の役目を果たそうとしたことは理解できるし、そうした方々のおかげで、諸々の犯罪が防がれているのだろう。

でもなあ、歩行器使用の92歳本人に窓口に来いとか、字の小さな書類を書けと、言われても。難しいんだよなあ。

「本人の壁」の厄介さが身に沁みた出来事だった。


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