花びらたちの忘れもの
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花紙が咲いて 散るたびに
やさしいはずの春風が
少しずつ忘れさせていく
花びらたちの誕生日
夢みたいな いつかの春に
みんなで好きだと話した色も
かぜで熱が出たときの
自分の顔色みたいに
忘れてしまったね ぼくらは
思い出せる温もりも
もう作り話かな めまいがする
風がうつむいた鼻をくすぐるから
ぼくはひとりで くしゃみをした
ぶわり 花冷えの吹雪で 返り咲く
足もとで寝ていた春の夢
いくつも重なる 同じ上着に
だいじょうぶだよと笑って歩き
ひらひら光る 木漏れ日に
ぼくらはみんなで足音まぜた
あれから何度もかぜをひいたし
そうだ 好きな色も変わったんだよ
忘れていく 誕生日とひきかえに
やさしい熱で思い出す
ぼくらはみんな 花風の吹く
いつかの春に生まれたんだと
──「花びらたちの忘れもの」 終
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