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毒書人の楽園(小説版)

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読み終えた小説をいろいろ紹介していきます
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記事一覧

三体 完結したと思ったけど、ファンの人の作品で完結だった

SFとはサイエンスフィクションの略称ですという言葉すら通じなくなってきている現在、スーパーファンタジーとか、サイファイとか、SFらしいSFというものがというか、昔ながらのSFと大上段に言えるものが少なくなってきている気がします。 ただ、この作品は大きな声でSFの大作で傑作だと言っても良いと思います。それが、日本の作品でないことが少し悲しいです。 『三体』『三体Ⅱ暗黒森林』『三体Ⅲ死神永世』の三部作に加えて、ファンの一人が書いたのに公式作品として認められた『三体X観想之宙』の6

『火の鳥 大地編 桜庭一樹』火の鳥は漫画でなくても火の鳥だった

手塚治虫の火の鳥というと知らない人はいないでしょうというと、最近の若い人は知らない人が結構いるらしいので、ジェネレーションギャップを感じています。 でも、漫画が好きなら火の鳥は絶対に読んでもらいたい作品群の一つではあります。 火の鳥は1作ではなく、古代日本から、現代、未来、宇宙の果てに至るまで、様々な時間と場所の物語を生き血を飲むと不老不死になる火の鳥を大きな軸として語られます。 昔の漫画で読みにくいものもありますが、全巻読み終えると、火の鳥の世界というか宇宙を、人の因果を巡

『探偵はパシられる カモシダせぶん』史上最弱の探偵短編集ですけど

自分で選んで買う本というのは、偏ります。 というか、好きな作家が決まると、その作家の本を買い続けるという習性を持っている私としては、好きになった作家の本を中心に買っていくので、新しい作家に巡り会うというのが、ちょっと難しい。 でも、新たな作家とも出会いたいので、人から本を薦められる機会があればできるだけ聞きたいのですが、全く知らない人に本を薦められてもちょっとなぁとなってしまいます。 そこで、先日から御書印を集める事にしたので、御書印をもらうときにその書店員さんに本を薦めても

『コメンテーター 奥田英朗』時代に即した精神病とは

人気シリーズの精神科医・伊良部一郎シリーズの一七年ぶりの最新作ということで、それまでの本を読んでいた私も当然購入したわけですが、しばらく積ん読本となっていました。 購入した時点では、まだコロナ騒ぎが収まっていない時期でしたが、今ではコロナは過去の病気というか、あれだけ騒いだのは何だったのかと思わせるほどの下火ぶりです。 主人公の伊良部先生というと、破天荒な精神科医で、奇想天外な言動と型破りな治療法で患者達を翻弄する名医というよりも迷医という方がふさわしいような気もする医者です

『怖ガラセ屋サン 澤村伊智』寒さか、寒気か?

この作者はデビュー作から好きで読んでいる作者の一人なのですが、実は私はホラーはどちらかというと苦手です。 でも、最近結構な割合で読んでるというのは、苦手と言いながら、実は結構好きなのかもしれないと最近思っています。 今回は連作短編集で、祖の短編全体を貫いて登場するのがタイトルにもある怖ガラセ屋サンなわけです。 普通に怪談を語るのではなく、いつの間にか怪談になってしまうだけでなく、自分が巻き込まれていく恐さ。 普段は恐怖に感じていないと思っていたことが、実は恐怖に気づいてい

「ムゲンのI」:知念実希人が贈る、傑作ファンタジーミステリーを読み終えて

ムゲンのI   知念実希人 知念実希人さんの「ムゲンのI」、読みましたか?上下巻の大作で、最初は少し手に取るのをためらってしまうかもしれません。医療ミステリーを得意とする知念さんですが、本作はファンタジー要素も強く、不思議な生き物が描かれた表紙に、「あれ?いつもの知念作品と違う…? 」と少し戸惑う方もいるのではないでしょうか。 主人公は、東京で働く医師、識名愛衣。彼女は、原因不明の昏睡状態に陥る奇病「イレス」の患者たちと向き合っています。愛衣は、患者たちの夢の中に入り込み

『さかさ星 貴志祐介』呪いと恐怖の先にあるホラー、というのでなく…

発売前から、貴志祐介先生の新作ホラーという事で楽しみにしていました。 更に、私の好きな鬼瓦が表紙全面に、これは期待しかありません。 結局一気に読み終えて、一日で読めそうだったけど、もったいないので二日に分けて読みましたが、ほぼ一気読みで勢いがついて読み進める面白さでした。 が、ホラー、呪物が出てきて、昔からの則と超常現象、そして呪いの正体とはとたたみかけるように物語が進んで行ったのだけど、何故か恐怖感が小説の面白さと比例しない。 旧家に収集された名品の数々が実は恐るべき呪

『戦国武将伝 今村翔吾』時代小説の短編も良いなぁ

西日本編と東日本編の2分冊で日本全県それぞれの県で一人ずつ取り上げての短編集ですが、全員の武将を知っているわけでもないけど、知っている武将もたくさんいて、それがそれぞれの物語を読むとじんわりと心が温まる感じで、それぞれもの物語の元になった文献も最後に掲載されています。 各都道府県で一人、武将を取り上げて掌編小説に! 直木賞作家・今村翔吾が挑む“驚天動地”の衝撃作 秀吉に、毛利、長宗我部、島津、さらには黒田官兵衛、立花宗茂…… 西の空に漢たちが舞う! 近畿・中国・四国・九州