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『火の鳥 大地編 桜庭一樹』火の鳥は漫画でなくても火の鳥だった
手塚治虫の火の鳥というと知らない人はいないでしょうというと、最近の若い人は知らない人が結構いるらしいので、ジェネレーションギャップを感じています。
でも、漫画が好きなら火の鳥は絶対に読んでもらいたい作品群の一つではあります。
火の鳥は1作ではなく、古代日本から、現代、未来、宇宙の果てに至るまで、様々な時間と場所の物語を生き血を飲むと不老不死になる火の鳥を大きな軸として語られます。
昔の漫画で読みにくいものもありますが、全巻読み終えると、火の鳥の世界というか宇宙を、人の因果を巡る物語を堪能できます。
ですが作者は既に鬼籍に入り、もう新作を読む事が出来なくなり、火の鳥を書き継いでくれる実力を持ったマンガ家も現れないし、新たな物語は諦めるしかありませんでした。
と、思っていました。
が、漫画ではなく小説で火の鳥が読めるとは。
漫画の神様・手塚治虫の遺稿に、直木賞作家・桜庭一樹が新たな命を吹き込む! !
1938年、日本占領下の上海。若く野心的な關東軍将校の間久部緑郎は、中央アジアのシルクロード交易で栄えた楼蘭に生息するという、伝説の「火の鳥」の調査隊長に任命される。
資金源は、妻・麗奈の父で、財閥総帥の三田村要造だという。
困難な旅路を行く調査隊は、緑郎の弟で共産主義に共鳴する正人、その友で実は上海マフィアと通じるルイ、清王朝の生き残りである川島芳子、西域出身の謎多きマリアと、全員いわく付き。
そこに火の鳥の力を兵器に利用しようともくろむ猿田博士も加わる。
苦労の末たどり着いた楼蘭で明らかになったのは、驚天動地の事実だった……。
漫画『火の鳥』や手塚作品に数多く登場する猿田博士やロック、マサトたちと、東條英機、石原莞爾、山本五十六ら実在の人物たちが動かしていく!
朝日新聞「be」連載時から話題沸騰。大幅な加筆による完全版!
小説のコミカライズというのもありますし、漫画のノベライズという逆もあります。
ですが、それなりにそれぞれ面白くなるのですが、やはり原典には敵わないというのが本音のところではあります。
今回の小説はあらすじを読むと、漫画に登場したキャラクターが小説にも出てくるというところで、無理やりに漫画を小説に流用してる感じがして、読もうかどうしようか少し悩んだのですが、読んでみて大正解。
火の鳥を読んでいる人にとって、この小説は必読だと言っても良い素晴らしい出来の作品だと思います。
内容としては、火の鳥を使った歴史改変SFとでも言ったら良いのかもしれません。火の鳥を巡る物語という漫画の骨格を小説に生かすとこうなりますかと唸ってしまいました。
また、火の鳥を読んでいない人にとっては、この作品を入り口に漫画の火の鳥を読むと更に楽しめる作品となっています。
猿田博士は、やはりというか、輪廻転生を重ねて、火の鳥に運命を定められている一人でありますし、やはりそうなりますかという展開に納得です。
出来れば、この作品を手塚治虫の絵の雰囲気で描ける人にコミカライズして頂きたい。
ファンタジー小説として、架空歴史小説としても非常に面白い作品となっているので、火の鳥を読んでいる人も、読んでいない人も是非読んで頂きたい。