『コメンテーター 奥田英朗』時代に即した精神病とは
人気シリーズの精神科医・伊良部一郎シリーズの一七年ぶりの最新作ということで、それまでの本を読んでいた私も当然購入したわけですが、しばらく積ん読本となっていました。
購入した時点では、まだコロナ騒ぎが収まっていない時期でしたが、今ではコロナは過去の病気というか、あれだけ騒いだのは何だったのかと思わせるほどの下火ぶりです。
主人公の伊良部先生というと、破天荒な精神科医で、奇想天外な言動と型破りな治療法で患者達を翻弄する名医というよりも迷医という方がふさわしいような気もする医者です。
ただ、読み進めると以前の伊良部先生をすぐに思い出し作品世界には入っていけるのですが、現実世界では一七年経っているのに、伊良部先生の時間は数年しか経っていないような感じです。
今回の伊良部先生は、ワイドショーの世界でコメンテーターとして出演したり、アンガーコントロールが出来ない患者だったり、うっかり億万長者になってしまった人だったりと、いろんな精神病を病んだ人達を翻弄しながら治療してしまうわけですが、コロナ禍の中というのが物語の大きな柱の一つとして作品を貫いています。
だから、コロナ全盛の頃に読めば、また違った感想になってしまうのかもしれませんが、コロナが下火になった今、あぁそんなこともあったよね。と、積ん読状態の間に内容が時機を逸してしまい、面白さが目減りしている気もします。
ただ、精神的な病に関して、いつの時代になっても伊良部先生なら、自分本位に解決してくれるはずという安心感もあります。
シリーズとしては第4作目となり、
『イン・ザ・プール』『空中ブランコ』『町長選挙』の三作に続きます。
どれも気軽に読めるので、読んでいない人はどこからでも面白く読めると思います。
今回も伊良部先生は注射を打つ姿に興奮する変態ではありますが、人間性にも問題はありますが、精神病を治す医者としては、ある意味正解の良い先生であるといえます。
ちなみに、今回の中で一番お気に入りの話は「ラジオ体操第二」です。理不尽な社会の出来事に、傍若無人な人と接する度に怒りがこみ上げても、もめるよりはガマンしてしまう。そのガマンが限界を超えたときに過呼吸になってしまう病に対して、怒りを発散する方法。
その辿りついた方法が、伊良部先生の影響をふんだんに受けたラジオ体操第二、確かにそんな人が近くにいたら収まっちゃうよね。と納得してしまいました。
私としては、ちょとずつでも短編を書き続けていってもらいたい作品の一つです。
そして、今回は看護師のマユミちゃんが大活躍します。
この世界線では伊良部先生よりも世界に影響力を持ってると言っても過言ではありません。